なぜ相続手続きではすべての戸籍謄本を集めなければならないのか?

相続手続きは、その内容によって窓口は様々です。

  • 相続税申告→税務署
  • 不動産の相続登記→法務局
  • 預貯金・有価証券の名義変更・解約換金→金融機関、証券会社

窓口は様々ですが、どの窓口も口をそろえてお願いしてくるのが、次の2つです。

  1. 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍を用意してください。
  2. すべての相続人の現在の戸籍を用意してください。

なぜ、これらの戸籍を集めないといけない理由は、次の2つです(先に結論を言ってしまいます)。

  1. 被相続人(亡くなった人)が、本当に亡くなったことを証明するため。
  2. すべての相続人の存在を明らかにし、それを証明するため。

 

被相続人が本当に亡くなったことを証明するための戸籍

人が亡くなり、死亡届が役所に提出されると、亡くなった事実が戸籍に記載されます。

死亡に関する情報(いつどこで亡くなったか、誰がそれを届け出たか)が記載され、名前の横に「除籍」と記載されます。

死亡届が受理されてから約1週間程度で出来てきますので、亡くなったことを証明する戸籍を取得できるのもその後になります。

手続きによっては、この後で述べる「出生から死亡までのすべての戸籍」や「相続人全員の現在戸籍」が不要な場合があります(死亡保険金の請求など)が、「亡くなったことを証明する戸籍」に関してはほとんどの手続きで必要になってきます。

 

「出生から死亡までのすべての戸籍」が必要な理由

「出生から死亡までのすべての戸籍」と「相続人全員の現在戸籍」が必要とされる理由は、戸籍の歴史と制度にあります。

よくあるケースを例に挙げてみたいと思います。

【前提】

  • 相続人は妻と子ども2人(2人とも昭和の時代に結婚している)
  • 被相続人は戦前(昭和20年以前)生まれ

 

戸籍制度の歴史

日本で本格的に戸籍の制度が始まったのが明治の時代で、それ以来、戦前に4回・戦後に2回改正が行われています。

改正の度に戸籍の様式にも変更が加えられ、その度に新しい戸籍が編製されています(これを「改」と言います)。

上の図で言うと、戦前は大家族単位(両親と子ども、それぞれの子どもの妻と子ども(=孫))で1つの戸籍を作られていたのが、戦後の憲法改正などにより昭和32年以降に核家族単位(両親と子ども)で戸籍が作られるようになりました。

そのため、戦後に結婚をした場合には、親の戸籍を抜けて新しく戸籍を作り、その子どもたちが結婚した場合には、その子どもたちも戸籍を抜けてそれぞれ新しく戸籍を作っています。

また平成に入ると、それまで紙で戸籍を保管していたのをコンピュータで管理するように改正が行われ、平成6年以降に様式変更により戸籍の作り替えが行われています(コンピュータ化への移行には莫大なコストがかかるため、旧式の戸籍を扱っている自治体も少なくはありません)。

 

作り替え前の戸籍の情報が引き継がれない場合がある

制度改正や結婚などの度に戸籍が作り替えられますが、作り替え前の戸籍の情報で、作り替え後の戸籍に引き継がれないものがあります。

その最たるものが、作り替え前に結婚して戸籍を外れた(=除籍)子どもたちの情報です。

上の例で言うと、平成6年の改製前の戸籍の時点では子どもたちの情報が載っています(生まれて親の戸籍に入ってから、結婚して親の戸籍を外れた事実まで)が、平成6年以降に改製された戸籍では、結婚して親の戸籍を外れた子どもたちの情報が載ってきません。

また、本籍地を変更している場合(新しい市区町村で新たな戸籍を作成)も同様のことが起こり得ます。

そのため、最新の戸籍だけでは、子どもがいるのかどうかが読み取れないので、以前の戸籍も取る必要があるのです。

 

他にも相続人がいないか追っていくためにも、出生からの戸籍が必要

上の例には当てはまりませんが、他にもこんなことがあります。

1.離婚歴がある場合
親が過去に別の人と結婚していて、その人との間に生き別れた子どもがいたとしても、再婚後に新しく作った戸籍にはその情報は引き継がれません。

父親が亡くなった後に戸籍を取り寄せてみて初めて、父親に離婚歴があり、前妻との間に子どもがいた、ということが分かるようなケースもあります(この場合、前妻との間の子どもも相続人になります)。

2.きょうだいが相続人になる場合
昭和32年以降の核家族単位の戸籍への改製前に、既に結婚していたきょうだいがいる場合は、その情報も改製後の戸籍には引き継がれません。

子どもがおらず、親も既に亡くなっている場合は、きょうだいが相続人となりますが、その場合はすべてのきょうだいの存在を明らかにする必要があります。

以上のように、「相続人の拾い漏れ」がないようにするために、「出生から死亡までのすべての戸籍」が必要とされるのです。

 

相続人全員の現在戸籍が必要な理由

被相続人の「出生から死亡までのすべての戸籍」によって、その人の相続人となり得る人がいる(いた)ことは分かりましたが、それだけでは不十分です。

その相続人となり得る人が今も生きているかどうかを証明する手段として、相続人の現在戸籍(最新の戸籍)も必要です。

家族や親族がお互いに疎遠でもなければ、今も生きているかどうかは分かりますし、誰が相続人になるかも分かっていますが、それは当事者同士の話であって、第三者(税務署、法務局、金融機関など)には分からない話です。

上の例で言うと、妻は被相続人に戸籍に載っており、生存していることも分かりますので良いのですが、結婚して戸籍から出ていった子どもたちは、書類上は今も生きているのかどうかは分かりません。

第三者に証明するという意味で、相続人全員の戸籍も必要な書類となります。

 

どうやって戸籍を集めれば良いか?

戸籍の収集は、市区町村の戸籍係の窓口で出来ます(郵送でも可能です)。

相続手続きで必要なので、○○(被相続人)の出生から死亡までのすべての戸籍が欲しいです」と伝えれば、書類の書き方を教えてもらうこともできます。

戸籍を取ってみて、それより以前に別の市区町村にも戸籍があった場合(転籍や結婚前に親の戸籍に入っていた場合など)には、その市区町村でも改めて戸籍を取る必要があります。

取得できるのは、本人の他、配偶者や子ども・孫などですが、請求先の自治体が複数に渡る場合や、きょうだい相続の場合などは、たくさんの戸籍を集めなければならない可能性が高く、大変です。

自分で取るのが大変だという場合は、いわゆる「士業」と呼ばれる専門家に取得代行を依頼することもできます。

依頼できる「士業」は、税理士、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、行政書士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士の8士業です。

これら8士業は、取得の度に委任状を書いてもらわなくても、自らの権限(職権)で取りに行くことが可能ですので、依頼者にとっては負担軽減になります。

ただし、これら8士業が職権で戸籍などを取得できるのは、それぞれの業務に必要な範囲のみです。

例えば税理士の場合は、相続税申告などの依頼を受けた場合には必要な範囲(関係ない人の戸籍までは取れない)で取得ができますが、相続税申告が不要な場合には取得ができません(「○○の相続税申告に必要だから」という理由を書いて取得申請しなければいけませんし、嘘をついて勝手に取ってしまうと後から制裁を受けることになります)。

ともあれ、戸籍を取りに行くのが面倒だ、取りに行けないという場合(基本的に平日しか行けませんので)は、必要に応じて士業に依頼してみてもよいかもしれません。