タイプ別・おすすめの遺言書の方式

 
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昨日は少し体調が悪かったもので、平日の更新がまた途切れてしまいました。

これからは、なるべく毎日更新しつつ、無理はせず、ボチボチやっていこうと思います。

さて、今日は遺言書についてのお話です。

遺言書には3つのポピュラーな方式があります。

  • 公正証書遺言
  • 自筆証書遺言
  • 秘密証書遺言

それぞれに一長一短があり、またコストにも違いがあります。

人によって合う・合わないがあるので、一概には言えないのですが、おおむね「この方式はこういうタイプの人に合う」というのを解説したいと思います。

 

公正証書遺言が合うのは、こんな人

公正証書遺言は、公証役場にて証人2名の立会いのもと、「公証人」という人に文面を作ってもらう方式の遺言書です。

作成後は、公証役場にて原本を保管してもらうことができます。
保管期間は公証役場によってまちまちではありますが、おおむね遺言者が120歳になる年までは保管することになっています。

公証人は、裁判官や検察官などの経歴を持つ人が退官後に就くことが多く、その公証人によるチェックを受けるため、形式不備による無効のリスクが無く、また公証役場で保管がされるので偽造や紛失のリスクもありません。

また、自筆証書遺言や秘密証書遺言のように、家庭裁判所での検認は不要です。

出張料金はかかりますが、病院や自宅などへ公証人に出張してもらうことができるのもメリットです。

一方で、証人2名が立会い、その内容を見られてしまうというデメリット(そのため、証人には信頼できる人や専門家に依頼することをおすすめします)や、コスト(公証人へ支払う料金など)がかかるというデメリットもありますが、その確実性から、すべての人におすすめの方式ではあります。

その中でも、公正証書遺言が特におすすめなタイプの人は、以下の通りです。

財産が多い人

財産(の金額や種類)が多い人は、それらを網羅する遺言を作成するのは一苦労です。

公正証書遺言であれば、財産が分かる資料と分割案、相続人や受遺者(になる予定の人)に関する戸籍や住民票などを渡せば、法的に有効な遺言書を作ってくれますので、記載する財産が多い人にはおすすめです。

また、財産が多ければ(その内訳にもよりますが)、公証人に対する手数料を支払う余力もあるかと思います。

もめる可能性のある人

自分の死後に相続人同士で財産をめぐってもめる可能性がある人にも、公正証書遺言がおすすめです。

もめる可能性が高いと、遺言書の文面の解釈をめぐって争いになったり、不利な状況に置かれている相続人が遺言書を隠したり、廃棄したり、偽造したりする可能性もあります。

公正証書遺言だと、少なくとも文面の解釈で分かれることはほぼありませんし(そうならないように公証人が作成してくれます)、隠匿・廃棄・偽造などのリスクもありません。

自分で字を書けない人

意思はしっかりしているものの、寝たきりで起きられない・字が書けないという方には、料金は割増になりますが、出張してもらえる公正証書遺言がおすすめです。

今後遺言書の内容が変わらない人

遺言書は、何度でも書き換えが可能ではありますが、公正証書遺言だとその度に料金がかかります。

そのため、「これが私の最終意思」「ここから変わることはない」という方には公正証書遺言がおすすめです。

 

自筆証書遺言が合うのは、こんな人

自筆証書遺言は、本文を自筆で作成し、最後に署名・なつ印する方式の遺言書です。

少し前までは、全文を自筆で作成する必要がありましたが、近年の改正により、財産目録はパソコン作成や財産に関する資料(登記事項証明書や通帳のコピーなど)で済ませることが可能になり、大分楽になりました(「どの財産を誰にあげる」といった本文は自筆である必要があります)。

思い立ったらすぐに作成でき、コストもかからないというメリットの半面、形式不備による無効のリスクや相続人による隠匿・廃棄・偽造のリスク、そもそも見つけてもらえないというリスクなどがあります。

また、家庭裁判所での検認が必要です。

なお、令和2年7月からは、自筆証書遺言を法務局で保管してもらう制度ができています。
3,900円分の収入印紙を用意すれば、法務局で預かってもらえますので、隠匿・廃棄・偽造のリスクを無くすことができ、家庭裁判所での検認が不要になります。自筆証書遺言のデメリットが大分軽減されています。

ただし、法務局では形式のチェックなどはしてもらえませんので、そこは注意が必要です。

また今年からは、指定した人に遺言書の存在を知らせる運用は始まり、他の方式にはいまだ存在する「見つけてもらえないリスク」も無くなる予定です(公正証書遺言は、公証役場が親切に知らせてくれるわけではありません)。

そのような自筆証書遺言がとくにおすすめな人をピックアップします。

若い世代

若い世代の方には、むしろ自筆証書遺言の方がおすすめかもしれません。

公正証書遺言は、たしかに法的有効性の面では安心ではありますが、コストがかかります。

また、遺言書を書いた後も、財産の内容や家族の状況が変わる可能性があり、一度書いた遺言が現況に合わなくなるリスクもあります。

そうであれば、少ないコストで何回でも書き換えられる自筆証書遺言が若い世代の方にはおすすめです。

今すぐ書きたい人

公正証書遺言は、完成までに時間もそれなりにかかります。

財産に関する資料や相続人に関する資料などを集め、案をまとめ、公証役場に提出する必要があります。
また、内容のすり合わせも必要です。

さらに、公証役場や証人とのスケジュール調整も必要であり、結構な手間ひまがかかります。

その点、自筆証書遺言であれば、思い立ったら、紙とペン、印鑑さえあれば、その場で作成することも可能です(法務局に保管するなら、申請書の作成と法務局への訪問予約が必要にはなります)。

お金をかけたくない人

自筆証書遺言の魅力は、何と言ってもお金がほとんどかからない点です。

作成にはお金がかかりませんし、法務局での保管も3,900円だけで済みます。

また、法務局に保管せず、死後、家庭裁判所での検認が必要な場合も、800円+戸籍取得代だけで済みます。

 

秘密証書遺言が合うのは、こんな人

秘密証書遺言は、公正証書遺言と自筆証書遺言の中間的な位置づけの遺言書です。

自分で作成した遺言書を封筒に封印し、証人2人と一緒に公証役場に持ち込みます。

公証役場では、遺言者が「この遺言書を書いたのは私です」という旨を述べ、公証人は封筒にその旨と日付を記入し、その後遺言者と証人2人による署名・なつ印をすることで秘密証書遺言としての効力が発生します。

その後、秘密証書遺言は自身で保管する必要があります(公証役場では預かってくれず、「作成した」という記録だけが残ります)。

その際の料金は、一律11,000円と、自筆証書遺言よりは高いものの、公正証書遺言よりはかなりリーズナブルなお値段となっています(公正証書遺言と同じく出張してもらえますが、その場合はやはり出張料金がかかります)。

秘密証書遺言は、署名・なつ印以外は、本文も含めてパソコン作成が可能という魅力があります。

また、作成時に封印をしますので、偽造や改ざん、中身を知られるリスク(証人2人も含む)がないというのもメリットです(もし開けてしまうと、その時点で遺言書としての効果が無くなります)。

一方、自分で保管しなければならないので、紛失のリスクまでは無くならず、また家庭裁判所での検認が必要な点は自筆証書遺言(法務局保管なし)と同じです。

また、公証役場が関係すると言っても、内容のチェックまではしてくれない(持ち込む時点で封印されています)点も注意が必要です。

秘密証書遺言は、他の2方式に比べ、利用される割合は圧倒的に少ないですが、それでも次のような人にはおすすめです。

長文を書くのが難しい人

秘密証書遺言は、本文までパソコン作成が可能であり、自分で書くところは署名だけなので、長文を書くのに不安があり、公正証書遺言のようなコストまではかけたくない人にはおすすめです。

また、他の人による代筆でもOKです(この場合も署名は本人がする)。

誰にも内容を知られたくない人

秘密証書遺言は、公証人や証人2人も含めて、内容を死後まで秘密にしておけるというメリットがあり、とくに相続人には最期まで内容を秘密にしておきたいという場合にはおすすめです。

ただし、パソコン作成や代筆を誰かに頼むのであれば、その人には内容を知られてしまいます。

 

まとめ

いずれの方式で作ったとしても、リスクとして存在するのが、以下の2つです。

  • 相続税リスク(分け方次第で相続税が高くなるリスク・納税資金が不足するリスク)
  • 遺留分リスク(その分け方が特定の相続人の遺留分を侵害していないか)

これらについては公証役場や法務局などでは親切には教えてくれません。

また別の記事でお話したいと思いますが、これらのリスクも回避したいということであれば、専門家(弁護士、行政書士、税理士など)に相談されることをおすすめします。