こんなモノも相続財産になる!?
相続の現場でメインとなってくる財産と言えば、不動産(土地・家屋)や有価証券(株式、債券、投資信託など)、預貯金、事業用の財産などがありますが、それ以外にも計上を忘れてはならない財産があります。
目次
家庭用財産
まず、どの家庭にでも必ずあるものが、「家庭用財産」です。
家庭用財産とは、自宅内にある家具・家財・家電などを指します。
原則的なことを言えば、ペン、お皿、スリッパ、タンス、テレビなど、どれ1つとして価値がないものはないので、それら1つ1つを財産としてリストアップし、評価(値付け)をしていかなければならないのですが、現実的には無理です。
そのため、自宅内にある家具・家財・家電などをひとまとめにして、一式で「5万円」や「10万円」、「30万円」という値段をつけて、財産に計上します。
「家具家財を全部合計してもそんなにしないよ」と思われるかもしれませんし、実際に家具の下取りなどをしてもらってもそんなにしないかもしれません。
しかし、「金銭で見積もることができるもの」は全て計上する必要がありますし、計上せずに申告すれば、「自宅内に何もないことはないでしょ」ということで税務署から指摘を受ける可能性もあります。
1個当たり5万円以下のものであれば、それらを世帯で一括して「家庭用財産一式〇万円」として計上してもよいことになっています。
私も、お客様から申告のご依頼をいただいて最初に面談する時は、この金額をいくらにするかを話し合って決めております。
なお、相続の直前に購入した、比較的高価な家庭用財産(8Kテレビやパソコン、ソファやベッドなど)は、それ単独で評価して財産に計上する必要がありますので、注意が必要です。
直前に預金から多額のお金が引き出されていたり、クレジットカード代の引き落とし額が多かったりして、自宅内にそういった家具家電などが見受けられると、分かってしまう可能性もあります。
電話加入権
自宅に固定電話がある場合は、「電話加入権」という財産を計上しなければならない可能性もあります。
電話加入権は、NTTと加入電話の契約を行い、「施設設置負担金」を支払うと発生する権利です。
負担金の支払い時は何万円(近年でも4万円弱)という金額ですが、相続税の計算上は令和元年分は全国一律1,500円です。
生前にNTTの固定電話を使用されている場合は、わずかな金額ではありますが、計上を忘れないようにしましょう。
近年では、NTT以外の会社が提供する固定電話回線や、NTTでも「ひかり電話」などもあり、電話加入権がない場合もあります。
社会保険料の過誤納金
亡くなった後に、社会保険料(健康保険料、介護保険料、後期高齢者医療保険料など)が市町村などから還付されることがあります。
この還付金も財産として計上する必要があります。
これら社会保険料の納め方にもよりますが、年金から天引きしてもらっているケースだと、下記のように保険料が先払いで天引きされていますので、亡くなったタイミングによっては、先払いした保険料が還付されるというわけです。
例)12月支給の年金・・・10・11月分の年金が支給されている
→天引きされている保険料は12・1月分
→1月に亡くなれば、1月分の保険料が還付される。
社会保険料の還付金がある場合は、市役所から還付額のお知らせと還付金の請求用紙が届きますので、書いて送るだけで還付金を受け取れるケースが多いです。
高額療養費の還付金など
社会保険料の還付金と似たところで、「高額療養費」の還付金も財産に含まれます。
高額療養費は、1か月間の病院代の支払が一定額を超えると、その超えた金額が健康保険組合や「後期高齢者医療広域連合」(後期高齢者医療制度を運営する団体)から還付されます。
還付は約3か月後に行われますので、生前の病院代の一部が亡くなった後に返ってくることもあり、それを財産に計上する必要があります。
また、生前に介護を受けていた場合は以下の還付金についても、同様に財産に計上しなければならない可能性があります(2,3は、8月~翌年7月分の費用の一部がまとめて後日還付されます)。
- 高額介護サービス費
- 高額介護合算療養費
- 高額医療合算介護サービス費
本筋から逸れますが、事前に病院代がたくさんかかることが分かっているなら、「限度額適用認定申請書」という書類を健康保険組合などに提出することで、「限度額認定証」という保険証のようなものがもらえます。
(下記URLは「大阪府後期高齢者医療広域連合」での手続き用)
http://www.kouikirengo-osaka.jp/application/
これを病院で提示することで、はじめから病院代を一定額までしか支払わなくて済みます。
お金をたくさん用意しなくてよいので、お勧めです(私も、妻が帝王切開で出産する際に、税理士国保で事前に取得していました)。
所得税・消費税の還付金
準確定申告をしていて、所得税や消費税が還付となる場合は、その還付金も財産となります。
逆に、納付する場合には、債務として財産から差し引くことが可能です。
車
車も財産に計上する必要があります。
相続後に売却してしまっても、銀行口座から自動車税や自動車保険料などを引き落としにしていれば、車を持っていたことが分かってしまいます。また、Googleストリートビューなどで車が映ってしまっていることもあります。
通常は、その車がいくらで売れるかを調べて、その金額を計上します。
もし亡くなった後に売却していれば、その金額を使ってもいいです。
いくらで売れるかが分からない場合は、車を買った時の資料(明細、領収書など)があれば、そこに書かれた金額をもとに、減価償却をした後の残額を計上します。その資料もなければ、ネットなどで調べた新品の値段をもとに減価償却する方法もあります。
太陽光発電システム
自宅の屋根に太陽光発電用のパネルを載せている場合は、これも財産に計上する必要があります。
太陽光発電システムを設置する際は、何百万円というお金が動いていると思われますし、Googleなどで屋根に載っていることが分かることもあります。
太陽光発電システムも車と同じように、いくらで売れるかを調べる必要がありますが、車と違い、流通市場がないので、実際には減価償却して金額を求める必要があります。
太陽光発電システムの減価償却は、17年間で行います。
設置費用が何百万円とかかり、設置から日が浅ければ、そんなに減価償却ができないので、結構な財産額にはなってしまいます。
損害保険契約や建物更生共済契約
自宅などに火災保険や建物更生共済(JAが運営する火災保険。「建更」(たてこう)と呼ばれたりします)を掛けていたり、自動車保険に入っていたりすれば、これらの契約も財産価値があるものとして、財産に含める必要があります。
通常の火災保険や自動車保険については、「亡くなった時に解約したらいくら保険料が戻ってくるか」を調べ、それを計上する必要があります(損保会社に問い合わせれば、口頭か書面で教えてくれます)。
建更については、積み立ての部分があり、満期を迎えると「満期共済金」というものがもらえます。
そのため、亡くなった時点での積立額を計上する必要があります。これは、JAに請求すれば残高証明書を出してくれます。
電子マネー・キャッシュレス決済手段
今もてはやされている電子マネーやキャッシュレス決済手段も、現金と同じものとして財産に計上する必要があります。
電子マネー等は、
- プリペイド(事前に現預金やクレジットカードでのチャージが必要)
→Suica、ICOCA、nanaco、LinePay、PayPayなど - リアルタイムペイ(支払の都度、預金口座などから支払額が引き落とされる)
→デビットカード、ゆうちょPayなど - ポストペイ(後日まとめて引き落とし)
→クレジットカード、PiTaPaなど
の3種類に分けることができます。
この中で、プリペイドタイプについては、事前にチャージをしますので、残額を財産に計上する必要があります。
また、ICOCAなどはデポジット(保証金)をはじめに支払っていますので、これも財産に計上する必要があります。
なお、ポストペイタイプの引き落とし額については、債務として財産から差し引くこともできます。
まとめ
今回挙げた「財産」は、不動産や有価証券、預貯金などの主だった財産に比べると、金額はわずかなものかもしれませんし(建更や車などを除く)、調べた結果として相続税額がわずかながら増える可能性もあります。
しかし、当事務所では、相続人の方への聞き取りや預貯金口座の精査などを通して、そこまできっちり調べ、財産に計上するようにしています。
その理由は、これらも漏れなく財産に計上することで、「きっちりしているな」という印象を税務署に与える効果がありますし(そもそも経済的価値があるものは、すべて財産として計上する必要があるのですが)、調べてその財産の存在を知ることで、少しの手続きでいくらかでも換金できることもあるからです(特に還付金や電子マネーなど)。