「死因贈与」という財産の渡し方
ある人が亡くなった時、その人が遺言書を残していれば、基本的にはその遺言書通りに財産が承継されます。
遺言書がなければ、その人の法定相続人が話し合いをして、財産をどう分けるかを決めます(遺産分割協議)。
ほとんどのケースでは、この2つのどちらかで財産が承継されていきますが、もう1つ方法があります。
それが、「死因贈与」という方法です。
死因贈与とは?
「死因贈与」とは、贈与契約の一種で、
- 贈与者(あげる人)が「あげます」という意思表示
- 受贈者(もらう人)が「もらいます」という意思表示
をして成立するものです。
その意味では通常の生前贈与と同じなのですが、違うのは、「贈与者(あげる人)が亡くなったらあげます」という点、つまり贈与者が亡くなったことに起因して(=死因)贈与が行われるという点です。
また、生前贈与には「贈与税」が課税されますが、死因贈与は「相続税」の課税対象になります。
死因贈与をするには?
死因贈与は、贈与者(あげる人)と受贈者(もらう人)との間で、「死因贈与契約」を結ぶ必要があります。
通常の贈与契約と同じように、口頭(口約束)でも可能ですが、実務的には書面で残しておくことがお勧めです。
死因贈与と遺贈の違い
死因贈与が遺贈(遺言書で財産をあげること)と違う点は次の通りです。
遺言書のような面倒さがない
一番の違いというか、メリットは、「遺言書のような面倒さがない」と言う点です。
具体的には、以下のような点です。
- パソコンで作成してもよい。
これが一番の特徴と言えるかもしれません。死因贈与契約には、書き方や押印などの方式に関する規定が存在しませんので、パソコンで全文や名前を書くことも可能です。自筆証書遺言は、方式が緩和されたとは言え、本文や署名などは手書きである必要があります。
また公正証書遺言は、公証人に文面を作ってもらうというひと手間が必要です。
ただし、将来の紛争の防止のために、署名だけは自筆で、押印は実印を押しておくなどの工夫は必要でしょう。
- 費用がかからない
公正証書遺言を作成する場合は、公証人に対する手数料などを支払う必要がありますが、死因贈与契約は贈与者・受贈者間の契約なので、特に費用はかかりません。寝たきりで、公証役場まで行けず、公証人に出張してもらうには出張費用がかかりますが、これも当然必要ありません。
また、公正証書遺言を作成する際には立会人2人が必要ですが、これも死因贈与契約では必要ありません。
- 検認が不要
自筆証書遺言では、相続後に家庭裁判所で「検認」の手続きが必要ですが、これも死因贈与契約では必要ありません。
一方でデメリットも・・・
いいことばっかりに見える「死因贈与」ですが、デメリットもあります。
- 不動産取得税等がかかる
死因贈与で不動産をあげた場合には、生前贈与などと同じく、不動産取得税がかかってしまいます。
また、登録免許税も2%かかります(相続なら0.4%)。ちなみに、相続人でない人が遺言で不動産をもらった場合も上記と同様です。
- 受贈者(財産をもらう人)に、財産をあげることや財産の内容が分かってしまう
遺言書なら、あげる側が一方的に書くことができるので、財産をあげる意思や財産の有無が分かることは少ないのですが、死因贈与契約は、贈与者(あげる人)・受贈者(もらう人)双方向の契約なので、当然ですが、その内容が分かってしまいます。自分が亡くなるまでは秘密にしておきたいという人には向いていません。
- 契約を一方的に破棄できない(破棄しにくい)
贈与者の方は、契約を撤回することは可能ですが、相手があることなので、トラブルになる可能性があります。一方、受贈者の方も、贈与者が亡くなった後で、財産をもらうことを一方的に放棄することが困難です。
まとめ
その他、特筆すべき点は以下の通りです。
- 遺言と同じように、執行者(贈与契約の内容を実現する人)を定めることができます。執行者がいない場合は、不動産登記の際、相続人全員の署名押印が必要です。
- 遺言と同じように、「予備的死因贈与」も可能です(受贈者が先に亡くなった場合、どうするか)。
あまり使われることがなく(実は、私も実務で出会ったことはありません)、メリットもデメリットもある「死因贈与」ですが、こういう選択肢が存在するということだけでも覚えておいていただければ幸いです。