「一代飛ばし」で財産をあげる方法

子どもがいる場合は、通常、子どもが優先的に相続人となります(配偶者が健在であれば、配偶者も相続人となります)。

この場合、通常であれば孫には相続権がありません(孫の親である子どもが亡くなっていれば相続権が発生します。これを「代襲相続」といいます)。

しかし、財産の規模によっては、子どもを飛ばして孫に財産をあげる(=一代飛ばし)ことで、相続税の節税になることもあります。

全部で5つの方法があり、大まかに2つに分けると、生前からあげる方法と亡くなってからあげる方法とがあります(ただし、亡くなってからあげる方法も、対策は生前からしておく必要があります)。

「一代飛ばし」のメリット・デメリット

この後で述べていく方法にもよりますが、各方法にある程度共通する「一代飛ばし」のメリット・デメリットは以下の通りです。

【メリット】

  • 節税になる。
    →各方法にもよりますが、本人や子どもの代の課税ベースが小さくなるため。
  • 子どもの代の相続での手続きの手間が減る。

 

【デメリット】(孫が代襲相続人である場合を除く)

  • 孫が相続で財産をもらう場合、通常の相続税の2割増し(=2割加算)となる。
    →通常、孫は相続人にはならないのに、相続で財産をもらえるので、少し多めに相続税が課されるのです。
  • 不動産をもらう場合は、不動産取得税がかかったり、登録免許税が多めにかかったりする。
    →不動産取得税:3~4%
     登録免許税 :2%(法定相続人が相続でもらう場合は、0.4%で済みます)

 

 

暦年贈与でコツコツ渡していく

1つは、生前から毎年少しずつ贈与していく方法です。

想定される相続税率よりも低い税率で贈与を続けていくことで、以下のような効果が期待できます。

対策前の相続税<対策後の相続税+贈与税

また、孫への贈与については、亡くなる3年以内の贈与財産を相続時の財産に持ち戻さなくてもよいというメリットもあります(孫が相続で財産をもらわないという前提)。

デメリットとしては、毎年計画的に、コツコツと贈与していかなければならないという点です。

贈与税は、相続税よりも税率が高いため、贈与税があまりかからないようにしようと思うと、少額の贈与にならざるを得ないからです。

そうすると、ある程度の年数をかけて、コツコツとやっていくしかありません。

 

住宅取得資金贈与や相続時精算課税で一気に渡す

暦年贈与のように、コツコツとやっていく時間的余裕がない、という場合は、一気に渡しても贈与税がかからない制度を利用する手もあります。

1つが「住宅取得資金贈与」です。

ここ最近、何度も取り上げていますが、これにより多額の資金を無税で贈与することができます(今年の3月末までの売買・請負契約であれば、最大3,000万円まで)。

しかも、この制度は3年以内の財産への持ち戻しの必要もありません

デメリットは、用途が「住宅の購入」に限定されるという点です。

 

もう1つが、「相続時精算課税」です。

20歳以上(贈与年の1月1日時点)の孫であれば、申告書と一緒に届出書を出すことで、2,500万円まで無税で贈与することができます。

しかし、一度こちらの制度を使ってしまうと、「暦年課税」には戻れない点や、相続で財産をもらわなくても、相続時の財産に持ち戻しが必要で、孫にも相続税がかかってしまうので、直接的には相続税の節税にはなりません(むしろ2割加算により増える可能性すらあります)。

考えられるメリットとしては、2つあります。

  1. 値上がりした財産であっても、値上がり前の金額で持ち戻せばよいので、結果的に相続税の節税となる。
  2. 収益物件や有価証券の場合は、孫に渡してしまうことで、贈与後の収益(家賃収入、配当収入、売買益など)が財産として蓄積していかない(収益は孫のものとなる)。

このようなメリットはありますが、限定的ではあります。

不動産を贈与するのには向いていますが、不動産では、不動産取得税がかかったり、登録免許税が相続でもらうよりもかさんだりするデメリットもあります。

 

遺言で渡す

ここからは、亡くなってから財産を渡す方法です。

遺言書がない場合は、民法で規定された「法定相続人」しか財産分けの話し合い(=遺産分割協議)ができませんが、遺言書を書いておけば、相続人でない人にも財産を渡すことができます。

この遺言書で、財産の承継者を孫にするという方法もあります。

遺言を書いておけばよいので簡単ですが、この方法の税金面のデメリットは次の通りです(孫が相続人でない場合)。

  • 孫がもらう分に対する相続税は、通常の2割増しになる。
  • 不動産取得税がかかったり、登録免許税が多めにかかったりする。
  • 通常、孫に生前贈与した財産は持ち戻さなくてよいが、遺言で財産をあげることにしていると、3年以内の贈与財産も持ち戻して相続税を計算しなければならない。

また、孫が遺言で財産をたくさんもらう場合は、他の相続人(孫から見れば、親やおじ・おば)から遺留分(遺言が書いてあっても主張できる最低限の取り分)を請求される可能性もあります。

 

養子にする

孫を養子にすれば、孫も法定相続人になりますので、相続権が発生し、遺言が無くても財産を承継することができます。

また、孫が相続人に加わることで、相続人の頭数が増えるため、相続税的に次のようなメリットがあります。

  • 基礎控除額が増える(3,000万円+600万円×相続人の数)。
  • 保険金や退職金の非課税枠が増える(500万円×相続人の数
  • 相続税の総額を法定相続分で按分するので、適用される税率が低くなることがある。
  • 不動産を相続する場合も、不動産取得税がかからず、登録免許税も0.4%で済む。

逆に、次のようなデメリットもあります。

  • 2割加算がある。
  • 相続前3年以内の贈与の持ち戻し計算がある。
  • 遺言がなければ、孫がおじ・おばと遺産分割協議をしなければならない(そのため、遺言書の作成とセットにした方がよいかもしれません)。

 

生命保険金の受取人にする

生命保険金の受取人を孫に指定するという方法もあります。

生命保険金は、受け取りに必要な資料さえ揃えば、5営業日以内に受け取れるというメリットがあります。

しかし、税金的には、次のようにメリットはあまりありません(子どもを経由しない分、節税になるくらい)。

  • 相続人でない孫が受け取る生命保険金には、非課税枠(500万円×相続人の数)が適用されない。
  • 孫も相続で財産をもらったものとみなされるので、相続前3年以内の贈与財産の持ち戻し計算が行われる。
  • 相続税の課税対象になり、2割加算がある。

 

まとめ

以上をまとめると、以下のようになります。

方法 メリット デメリット
暦年贈与でコツコツ渡していく 持ち戻し計算がない。 贈与税を抑えるためには、少額の贈与を何年か続ける必要がある。
住宅取得資金贈与 など

無税で一気に渡せる。

持ち戻し計算がない。

用途が住宅の購入などに限定される。
相続時精算課税

無税で一気に渡せる。

値上がりが期待される財産や収益を生む財産の贈与に向いている(結果的に節税になる)。

暦年課税に戻れない。

相続時の持ち戻し計算が必要で、孫にも相続税がかかる。

2割加算がある。

遺言で財産を渡す 遺言を書けばよいので簡単(公正証書遺言の場合は、少し手間がかかります)。

3年以内の贈与財産の持ち戻し計算が必要になる。

不動産取得税等がかかる。

2割加算がある。

養子にする

基礎控除額が増える。

生命保険金や退職金の非課税枠が増える。

適用される税率が低くなる可能性がある。

不動産取得税等がかからないor少なくて済む。

3年以内の贈与財産の持ち戻し計算が必要になる。

2割加算がある。

遺言がなければ、孫はおじやおばと遺産分割協議をしなければならなくなる。

 

生命保険金の受取人にする すぐに受け取れる。

3年以内の贈与財産の持ち戻し計算が必要になる。

2割加算がある。

生命保険金の非課税枠の適用が無い。

 

完璧な方法というのはありませんが、節税という点から「一代飛ばし」を検討してみてもよいかと思います。

その場合は、やはり「相続税シミュレーション」で効果の程を検証した方がよいでしょう。