相続財産の売却代金を分け合う時の注意点―その分け方、相続人の税金に影響するかも⁉

相続した財産を売却した後の手残りを、相続人で分け合うというのは、よく行われる遺産分割の方法です。

しかし、この分け方、よくよく気を付けないと、思わぬところに影響してくるかもしれないのです。

 

遺産分割の方法は4つある

遺産の分け方には、4つの方法があります。

この中で、売却代金を相続人で分け合うのによく使われるのが、「共有分割」「換価分割」「代償分割」です。

現物分割

「自宅は妻」「アパートAは長男」「アパートBは二男」というように、財産ごとに誰が相続するかを決める方法です。

共有分割

全部(または一部)の財産について、「妻2分の1・長男4分の1・二男4分の1」という具合に、共有で取得する方法です(割合は話し合いで自由に決められます)。

「夫婦で共有」または「親子で共有」は分割の選択肢としておすすめです。

しかし、「きょうだい(子供たち)で共有」というのは、後々の処分(不動産の活用や売却など)において揉めるもとになったり、子供たちに相続が起こると孫やひ孫の世代で共有する原因になったりします。

売却することで一致しているのでなければ、きょうだいでの共有は、あまりおすすめしていません。

 

換価分割

相続財産を売却し、そこから諸経費(仲介手数料など)や税金を差し引いた残りのお金を分け合う方法です。

遺産分割協議書では、例えば、次のように書かれます。

第〇条 次の不動産を売却換価し、売却代金から売却に伴う諸費用(不動産仲介手数料、契約書作成費用、登録免許税等)を控除した金額を、妻○○2分の1、長男△△4分の1、二男✕✕4分の1の割合でそれぞれ取得する。

土地
 所在 大阪市北区・・・

共有分割と似ていますが、共有分割は共有する相続人全員の名前で登記しなければならないのに対し、換価分割は便宜的に代表の相続人1人の名前で登記して、売却代金を後から分けるという違いがあります。

ただし、その場合は、その旨を遺産分割協議書に明記する必要があります。

代償分割

全部(または一部)の財産を誰かが相続する代わりに、その財産をもらった人が他の相続人に対し自分の財産(お金など)を渡す方法です。

例えば、「全財産を妻が相続する代わりに、妻から長男と次男にそれぞれ現金1,000万円を渡す」という具合です。

この代償分割で渡されるお金が、俗に「ハンコ代」と呼ばれるものです。
(財産の大部分を相続する旨の遺産分割協議書にハンコを押してもらう見返りに、幾ばくかのお金を渡すという意味で)

 

分け方が相続人の税金に影響する⁉

以上4つの分け方は、どの方法を取っても、もらった財産の金額が同じであれば、基本的に相続税は同じになります(特例への影響は除きます)。

しかし、分け方次第で、財産をもらった相続人(やその家族)の税金に影響してくることがあります。

3,000万円控除が使える人・使えない人

自宅を売却した場合には、俗に「3,000万円控除」という特例が使える場合があります。

自分が住んでいる(住んでいた)自宅を、住まなくなってから3年後の年末までに売れば、売却益から最大3,000万円を控除できるというものです。

例えば、お父さんが住んでいた自宅を、一緒に住んでいた相続人(お母さんや子供)が相続した後に売却すれば、この3,000万円控除が使えます。

しかし、一緒に住んでいなかった相続人が相続後に売却すれば、この3,000万円控除は使えません。

例えば、自宅を売却することを前提に、妻(同居)・長男(同居)・二男(別居)が法定相続分で取得(=共有分割)し、その後売却により利益が6,000万円出た場合には、次のようになります。

  妻(同居) 長男(同居) 二男(別居)
売却益 3,000万円 1,500万円 1,500万円
控除 △3,000万円 △1,500万円 なし
控除後の売却益 0円 0円 1,500万円
売却益への税金 0円 0円 304万円

 

このように、一緒に住んでいた妻と長男は3,000万円控除が使える(共有の場合は、それぞれで3,000万円の控除枠があります)のに対し、住んでいなかった二男は3,000万円控除が使えません。

 

そのため、自宅の売却を前提にするのであれば、同居の有無を踏まえ、分け方を選ぶ必要があります。

上記の例では、次のような選択肢があります。

  • 現物分割(妻か長男が相続する。ただし、3,000万円を超えてしまう。)
  • 妻と長男だけで共有分割
  • 二男にも平等に分けることを考えるのであれば、代償分割で妻や長男から次男へお金を支払う。
  • 換価分割

自分自身や配偶者の税金にも影響

もう1つ、相続人である子どもの中に専業主婦がいる場合も、分け方を気を付ける必要があります。

通常、専業主婦の場合は、夫の扶養に入ることで、

  • 夫が配偶者控除を受けられる
  • 夫の社会保険に、妻自身が保険料を支払うことなく加入できる

といったメリットを享受することができます。

もし、この妻が、親の相続で不動産などを相続し、その後売却した場合、多額の売却益が出ると、一時的に妻の所得が増えるため、上記のメリットに対して、次のような影響が出ます。

  • 夫が配偶者控除を受けられる
    →妻の所得が増えるので、1年だけ配偶者(特別)控除が受けられなくなる可能性がある。
     また、妻自身の税金(所得税・住民税)が1年だけ増える。
  • 夫の社会保険に、妻自身が保険料を支払うことなく加入できる
    →こちらは、妻の「継続的な収入」が130万円未満であれば、引き続き夫の社会保険に入ることができる。
    (健康保険組合によって扱いが違う場合もありますので、注意は必要です)

相続人だけでなく、その家族の税金にも影響を及ぼす可能性がありますので、それを避けるのであれば、次のような形で相続するというがあります。

  • 専業主婦である相続人は相続せず、代償分割でお金だけもらう。
  • 換価分割

 

まとめ

同じ値段のものを相続するとしても、その後のてん末まで同じになるとは限りません。

相続財産の売却を予定しているのであれば、売却後を見据えた分け方に留意しましょう。