最近読んだ小説からー保証債務と相続
最近、自分の仕事の絡みで、タイトルに興味を惹かれて買った本があります。
『半沢直樹』シリーズなどで有名な池井戸潤さんの『かばん屋の相続』という文庫本です。
表題の小説を含め、全6話の短編小説から成る、短編集です。
あらすじ
タイトルからピンときた人もいるかと思いますが、実際にあった某かばん屋の相続争いに着想を得た作品ではないかと推測されます。
主人公が勤める信用金庫の取引先である、かばん会社の社長が急死し、兄弟2人が残されます。
社長である父は、会社を手伝っていた二男には生前に「相続を放棄しろ」と語り、「遺言」には、会社には全く関わっていなかった、大手銀行勤めの長男に会社の株式全てを譲ると書かれていたのです。
会社に乗り込んできた長男と対峙する二男、主人公の想いがぶつかり合い、さらに亡父の想いも重なって、小説は着地します。
これ以上はネタバレになるので書けませんが、他の5話も含めて読みやすいので、おすすめです。
保証債務と相続
その『かばん屋の相続』の中でキーワードとなるのが、「保証債務と相続」です(ここまで書いてしまうとネタバレになりそうですが・・・)。
「保証債務」とは、ご存知の方も多いかと思いますが、平たく言えば、
「借金をしている人が借金や債務を返せなくなったら、その保証人が代わりに返す義務」
のことです。
この「保証債務」が残っている状態で、「保証人」の立場の人が亡くなったら、「保証債務」はどうなるのでしょうか?
実は、財産債務の承継に関する「相続法」(民法の中の相続のパート)と、相続税に関する「相続税法」とで扱いが違ってきます。
保証債務は相続人に受け継がれてしまう
「相続」とは、例外を除けば、亡くなった人に関する一切の権利と義務を受け継ぐことを言います。
プラスの財産(不動産、有価証券、預貯金など)だけでなく、マイナスの財産(借金など)も受け継ぐことになります。
当然、「保証債務」もマイナスの財産として受け継ぐことになります。
プラスの財産だけもらっておいて、マイナスの財産はもらわないという、「いいとこ獲り」は基本的にできないのです。
プラスの財産をもらうなら、マイナスの財産も引き継がなければなりませんし、それが嫌なら、マイナスの財産を引き継がない代わりに、プラスの財産ももらえません(相続放棄と言います)。
※他に、プラスの財産と同額のマイナスの財産を引き継ぐ方法(限定承認)もあります。
保証債務は、相続税の計算で控除できない!?
では、この「保証債務」は、借金と同じように、プラスの財産から差し引くことで、その分相続税を安くできるのかというと、「基本的にはできない」のです。
なぜ、「基本的にはできない」かというと、プラスの財産から引くことができるマイナスの財産とは、
「亡くなった時に債務として確実なもの」に限られているからです。
「亡くなった時に債務として確実なもの」とはどういうことかというと、
- 亡くなった人に関する債務や費用で、
- 亡くなった時に、支払金額や支払義務が確定しているもの
を指します。
よく出てくる債務としては、次のようなものがあります。
- 借入金・ローン(団体信用生命保険で返済されるものは除きます)
- 病院代・介護費用(亡くなる日までの費用で、請求が亡くなった後に来たもの)
- 税金(所得税、消費税、住民税、事業税、自動車税など)
- 社会保険料(健康保険料、介護保険料、後期高齢者医療保険料など)
- 収益物件の入居者・テナントから預かっている敷金や保証金(敷き引きを除く)
- 水道光熱費や通信費、クレジットカード代(亡くなる日までの費用のもの)
- 事業の買掛金や未払金
「保証債務」は、亡くなった時点では「支払金額」や「支払義務」は確実なものではないので、プラスの財産から差し引くことはできないのです。
ただし、次のような場合は、「保証債務」であっても、プラスの財産から差し引くことができます。
- 借金をしている人が返済不能になったので、保証人(亡くなった人)が代わりに返済しなければならない状態で、
- 後から借金をしている(していた)人に、「自分が代わりに返済した分を返してくれ」と求めても、返してもらえる見込みがない場合
この場合は、返済不可能な金額だけ差し引くことができます。
その他に、プラスの財産から差し引くことができないものとしては、次のようなものがあります。
- お墓や仏壇の購入費用
- 相続手続きの諸費用(相続税申告報酬・登記費用・名義変更費用など)
- 遺言執行費用
- 上記のために必要な戸籍謄本などの取得費用
まとめ
以上をまとめると、次のようになります。
法律 | 保証債務の扱い |
相続法(民法) | 債務になる |
相続税法 | 控除の対象にならない |
この「保証債務」以外にも、「相続法」(財産分けの考え方)と「相続税法」(税金計算の考え方)とで、扱いが違うものがいくつかあり、注意が必要です。