相続の現場での生命保険の活用法

万が一のこと(亡くなったとき、病気やけがをしたときなど)があったときに、あると助かるのが生命保険です。

相続の現場では、次のような生命保険の活用方法があります。

相続税の節税手段として

「相続+生命保険」で真っ先に思いつくのが、相続税の節税手段としての使い方です。

亡くなられた人が自分自身に掛けていた生命保険で、保険金を相続人が受け取った場合は、

 500万円×相続人の数

までは、相続税がかからないようになっています。

※今日の記事まで特に触れませんでしたが、このHPでは、特に触れない限りは「相続放棄」が無いことを前提にHPやブログの記事を書いております。

例えば、財産は現預金のみ5,000万円で、相続人は子供2人の場合。

この場合、相続税は80万円かかります。

しかし、この現預金の中から、一時払い終身保険1,000万円に加入していた場合は、この全額が非課税
(保険金1,000万円ー500万円×2人=0円)となるため、相続税の課税対象額は4,000万円となります。

そうすると、相続税は0円となります。

そのため、生命保険金の非課税枠(500万円×相続人の数)を使い切っておらず、かつ、資金に余力があれば、生命保険への加入による相続税の節税はおすすめです。

 

当面の資金の手段として

相続が発生し、そのことが何らかの方法で金融機関に知られた場合(相続人からの連絡や新聞のお悔やみ欄など)、亡くなられた人の預貯金口座は「凍結」され、基本的にはお金の引き出しや毎月の支払い(水道光熱費など)の引き落としができなくなります。

亡くなられた人のお金で一緒に生活をしていた人は、口座を凍結されてしまうと生活に困りますし、亡くなられた後の様々な支払い(病院代やお葬式費用など)でお金が必要になります。

預貯金口座の凍結解除をするには、相続人全員の押印が必要になり、払い戻しまでに時間を要します(1~2週間ほど)。

他方、生命保険であれば、必要書類(戸籍謄本や死亡診断書など)を提出してから5営業日ほどで、受取人に対して保険金が振り込まれます。相続人全員の印鑑も必要ありません。

したがって、遺産の分け方が決まるまでの、当面の資金の手当てとしても、生命保険が有効な手段となります。

 

財産分けの手段として

3つ目が、財産分けで揉めないようにするための使い方です。

これには、細かく分けると2つの使い方があります。

代償分割の手段として

「代償分割」とは、例えば、「長男が全財産をもらう代償として、長男から長女にお金などの財産を渡す」ことがそれに当たります。

特に、財産がご自宅しかなく、均等に2分の1、3分の1という割合で分けたいけれども分けられない(分けにくい)時には、相続人の中の誰か1人がその財産を引き受ける代わりに、その財産を引き受けた相続人が他の相続人にお金を支払って、差し引きで均等になるようにします。

 (例)
 長男:自宅3,000万円ー代償分割金2,000万円(二男と三男へ)=正味取得財産1,000万円
 二男:代償分割金1,000万円(長男より)
 三男:代償分割金1,000万円(長男より)

上の例の場合、長男に代償分割金2,000万円を支払う余力があれば良いのですが、そんなお金がない場合は、自宅を売って、その売却代金で代償分割金を支払わなければなりません。

長男がこの自宅に住んでいれば、住む家を失う形にもなります。

もしこの時、親が長男を保険金の受取人として、生命保険に加入していれば、長男は保険金で以って代償分割金を支払うことができますので、家を売らずに済むかもしれません。
(生命保険金は、一定額以上は相続税の課税対象ですが、財産分けの対象ではなく、保険金の受取人固有の財産となりますので、長男はこの保険金を二男・三男と分け合う必要はありません。)

遺留分侵害額の支払い手段として

上記の例は、遺言書がなく、相続人全員で財産分けの話し合いをした場合の話です。

遺言書があれば、例えば誰か1人に財産を全てあげる、といったこともできます。

しかし、遺言書をもってしても侵すことのできない、相続人の最低限の取り分「遺留分」というものがあります。

相続対策=相続税対策 ではない②-分割対策その1

相続人の誰か1人が遺言書で大半の財産をもらうことができたとしても、他の相続人の「遺留分」を侵している場合は、その他の相続人は、この「遺留分」を満たす金額まで請求することができます。

この場合も、遺言書で財産をたくさんもらう人を保険金の受取人としていれば、「遺留分」の請求があったときに、その生命保険金でもって請求額に応えることができます。

注意点は2つ

生命保険を財産分けの手段として使う際には、2つのことに気をつける必要があります。

  1. 代償分割金をもらう予定の人や「遺留分」の請求をする可能性のある人を生命保険金の受取人にしない
    上でも述べましたが、生命保険金は、「相続税の課税対象にはなる」けれども、「財産分けの対象ではない」のです。

    「財産分けの対象ではない」ので、代償分割金の例での二男・三男や、遺言書で財産をもらえない人などが生命保険金を受け取っても、代償分割金を求めたり、「遺留分」を請求したりすることができるのです。
    (保険金は自分たち固有の財産だから、親の財産分けには関係ない、ということです。)

    代償分割を求められると予想される人や、遺言書で財産をたくさんもらう人が生命保険金を受け取れるようにしましょう。

  2. 生命保険金は財産分けの対象にはならないと言いましたが、例えば、財産の大半を生命保険の掛け金につぎ込み、誰か1人しか受け取れないようにしていた場合には、話が変わってきます。

    この場合には、保険金をもらう人とその他の相続人との間で著しく不公平が生じてしまうので、この保険金も財産分けの対象とする、という最高裁の判例もあります。

    このような場合には、必ずそうなるというわけではありません(色んな事情を考慮して判断すべきとされています)が、生命保険金以外に目ぼしい財産がない、という場合も注意が必要です。

 

まとめ

相続における生命保険の活用法には、他にも色々な方法があります。それについても、追々記事にしていきたいと思います。

なお、生命保険を使った相続対策は、余力資金でやるようにしましょう。