自筆証書遺言のルールが変わりました②

昨日(12月26日)、遺言書の種類の話と自筆証書遺言のルールが変わった話をしました(→詳細はこちら)。

今日は、その続きのお話です。

自筆証書遺言と公正証書遺言の再比較

改正後の自筆証書遺言と公正証書遺言を再度比較すると、次のようになります(一部、未施行の箇所あり)。

 

自筆証書遺言

公正証書遺言

誰が書かなければならないか?

全ての内容を遺言者が手書きで作成する必要があります。

→財産目録は手書きでなくてもよい(財産目録の全ページに遺言書の署名押印は必要)。

内容を公証人に伝えれば、文章は公証人が作成してくれます。

すぐに作れるか?

思い立ったらすぐに作ることができます(紙とペンと印鑑があればOK)。

実際には、内容を公証人に伝えたり、スケジュール調整をしたり(予約優先なので、必ずしも公証役場にふらっと出向いたら作ってくれるわけではない)、必要資料を用意(戸籍謄本や財産に関する資料など)する必要がある。

費用

不要

→令和2年7月10日以降、法務局で保管してもらうには、保管料が必要

公証人への法定の手数料が必要。

証人を用意してもらう場合や出張してもらう場合には、その費用も必要。財産規模にもよるが、トータルで10万円以上かかることも。

他人に対して内容の秘密を守れるか?

内容を他人に知られずに済む。

証人2人の立ち会いが必要なので、その2人には内容を知られてしまう(信頼できる人に証人をお願いすることが必要です)。

家族に対して内容の秘密を守れるか?

見つけられてしまえば、知られるリスクはある。

→法務局で保管してもらえば、内容を知られることはない(控えやコピーを手元に持っていれば別)。

存命中は、家族であっても内容を公証役場に照会することはできない。

(ただし、遺言者が持っている公正証書遺言の正本・謄本を見られてしまえば、知られてしまいます。)

紛失リスク・偽造リスク

ある。

→法務局に保管してもらえば、ない。

ない(遺言者が120歳になる年まで公証役場で保管してくれる)。

データ化され、全国どこの公証役場でも見られるので、大規模災害により作成した公証役場が損壊しても、内容が失われる可能性は極めて低い。

遺言が無効になるリスク

形式上の不備が生じて、遺言自体が無効になるリスクがある。また、内容が不明確な箇所があると、相続人間で争いになる可能性もある。

専門家である公証人が作成するので、形式上の不備で無効になることはない。

ただし、税金面や内容の良し悪し等までアドバイスをもらうことはできない。

相続が発生した後の手間

家庭裁判所にて検認手続きを受ける必要がある(費用と戸籍謄本が必要)。

→法務局に保管してもらえば、不要。

家庭裁判所での検認手続きは不要。

使われやすいシチュエーション

・ひとまず遺言書を作っておきたい場合(人はいつ何があるか分からないので)

・字は書けるが、余命宣告などをされた場合
→法務局に本人が出向かなければならない。

・公正証書遺言で正式なものを書くまでのつなぎ

・お金をかけたくない場合
→法務局に保管してもらうなら、保管料が必要。

・法的に有効なものを作成したい場合

・手が震えて字が書けない場合や、頭はしっかりしているが寝たきり状態のため自分で遺言書が書けない場合(公証人に病院等へ出張してもらうことも可能です)

・相続発生後、相続人になるべく手間をかけさせたくない場合

このように、自筆証書遺言のデメリットだった部分(全文本人の手書き、紛失等のリスク、家庭裁判所での検認手続きなど)が解消される一方で、新たなデメリット(法務局へ本人が出向かなければならない、費用がかかる)も発生しています。

しかし、リスクの解消や手間の削減で、遺言書が書きやすくはなったのではないかと思います。

共通して存在するリスク

一長一短のある自筆証書遺言と公正証書遺言ですが、両方に共通して存在するリスクとして、下記の2つがあります(ご自身で内容を考える場合)。

税金面や内容の良し悪し等までアドバイスしてくれない

公正証書遺言では、公証人が、遺言者から聞き取った遺言書の趣旨をもとに、法的に有効な書式にまとめてくれるというメリットがあります。

しかし、「このように分けたら税金的に有利(不利)ですよ」とか「Aさんに財産のほとんどをやってしまうと、後からBさんから遺留分侵害額の請求が来ますよ」といったアドバイスまではもらえません。

仮に遺言書で誰かに財産の全部またはほとんどをあげると書いてあったとしても、相続人がもらうことができる最低限の取り分。配偶者や子どもなら、法定相続分の2分の1。

なので、せっかく法的に有効な遺言書を書いたとしても、その分け方次第で結局残された人に手間をかけさせてしまう可能性もなくはないのです。

なお、自筆証書遺言の場合には、法務局保管が始まったとしても、法的に有効かどうかの確認まではしてもらえないようです。

遺言書が発見されないリスク

作成の段階から相続人が関わっているケースは別として、そうでない場合、遺言者が遺言書を作成していることやその保管場所が分からなければ、遺言書が発見されず、その内容が実行されないというリスクもあります。

なお、公正証書遺言や法務局で保管する自筆証書遺言には、相続開始後であれば、相続人等が検索できるようにはなっています(またはなる予定です)。

遺言書作成サポートを税理士に依頼するメリット・デメリット

遺言書の作成サポートを専門家に依頼しようとする場合、その専門家として考えられるのが、弁護士、司法書士、行政書士、税理士などです。

それぞれ、一長一短があるかと思いますが、ここでは我々税理士に依頼するメリット・デメリットについて触れてみたいと思います。

メリット

  • 相続税がかかると予想される場合には、相続税的に有利な分け方のシミュレーションをしてもらえる。
  • 遺言書作成の段階から相談に乗ってもらえるので、相続対策もしっかり行える。
  • 相続税申告まで一貫対応してもらうことも可能。

デメリット

  • 相続税に詳しい税理士や遺言書作成サポートを取り扱っている税理士が少ない。
  • 遺産相続に関する紛争が生じた場合は、代理人として相手方と交渉することができない(弁護士の範疇)。

また、すべての専門家に共通することは、遺言者本人以外に遺言書作成にかかわっているので、実際に相続が発生した場合に、遺言書の存在を知っている人がいるというのもメリットです(遺言者のご家族とも連絡を取れる状態にしておく必要はありますが)。

まとめ

遺言書は、死後に自分の意思を残されたご家族に伝えるための大切な書類です。

せっかく書いた遺言書も、それがご家族に伝わらなかったり、トラブルのもとになったり、そもそも法的に有効なものでなかったりすれば意味がありません。

遺言書の作成を思い立ったら、一度専門家に相談されることをおすすめします。

 

【編集後記】

はじめて編集後記を書きます。

私ひとりで事務所を経営していますし、自営業ですので、何日何時何分まで仕事しようが、途中で切り上げようが、自由なのですが、ひとまず今日で仕事納めとしようかと思っています。ブログは、休み中も書くかもしれません。

新年の営業は、1月6日から始める予定ですが、そのあたりも気分次第で変わるかもしれません。