自筆証書遺言のルールが変わりました①

当事務所のサービスメニューにも掲げている「遺言書作成サポート」。

平成30年7月の民法改正により、自筆証書遺言に関するルールが変わり、その一部が今年(平成31年)1月から施行されています。

遺言の方式

遺言には、大きく分けて2つの方式があります。1つが普通方式による遺言、もう1つが特別方式による遺言です。このうち、一般的によく利用されるのが、普通方式による遺言で、今回もこの普通方式による遺言についてお話していきます。

普通方式による遺言には、①自筆証書遺言②公正証書遺言③秘密証書遺言の3つの種類があります。

自筆証書遺言

遺言者(遺言を書く人)本人が、遺言書の全文・年月日・氏名を自書し、これに押印をして作成する遺言です。

自筆証書遺言の内容を執行する前に、まず遺言の保管者や遺言を発見した相続人は、家庭裁判所に遺言を提出して、「検認」という手続きを経る必要があります。

また、封印がしてある遺言書については、家庭裁判所にて、相続人等の立ち会いの上、開封しなければならないとされています。

公正証書遺言

公証役場にて、公証人に作成してもらう遺言です。

証人2人の立ち会いの下、遺言者が公証人に遺言の趣旨を口頭で伝え、公証人がこの内容を筆記して遺言者と証人2人に読み聞かせ、遺言者と証人2人が間違いのないことを確認の上、署名押印し、最後に公証人が規定の方式に従って作成されたものであることを付記して、署名押印します。

実際には、事前に内容をやり取りしておき、立ち会いの際は内容が既にパソコンで作成されたものが用意されており、立ち会い当日は、本人確認・内容確認と署名押印だけということが多いです。

作成後は、原本・正本・謄本の3種類の遺言が作られ、そのうち原本は公証役場で保管されます。原本の内容は、コンピュータでデータ化して管理され、全国どこの公証役場に行ってもその内容を確認することができます。

正本と謄本(遺言に関して言えば、この2つに違いは特にないとのこと)は、遺言者や遺言執行者になった人が保管し、実際に遺言者に相続が発生したときに遺言の内容を執行するために使われます。

秘密証書遺言

遺言の内容は秘密にしておき、その存在だけを証明することができる遺言です。

作成は、まず、自筆のほか、代筆やパソコンで作成し(本人による署名押印だけは必要)、遺言を封筒などに入れて同じ印鑑で封印します。

次にこれを証人2人の立ち会いの下、公証人に提出して、自分が遺言者である旨と住所・氏名を伝えます(代筆してもらった場合は、代筆者の住所・氏名も伝えます)。

そして、公証人は、遺言者の住所・氏名・日付を封書に記入し、遺言者・証人2人・公証人が各自署名押印します。

その後、公証人は秘密証書遺言が作成された日付、遺言者の住所・氏名を公証役場の記録に残します。遺言書は遺言者に返還され、遺言者にて保管されます。

秘密証書遺言は、その内容を秘密にできるというメリットはありますが、公証人が内容まで確認してくれるわけではなく、内容に不備が生じる可能性があります。また、保管は遺言者の側で行う必要があり、紛失のリスクや遺言が発見されないリスクもあります。家庭裁判所での検認手続きも必要です。

上2つと比べると、あまり使われることはありません。

自筆証書遺言と公正証書遺言の比較

よく利用される、自筆証書遺言と公正証書遺言について比較すると、次のようになります(昨年の民法改正前まで)。

 

 

自筆証書遺言

公正証書遺言

誰が書かなければならないか?

全ての内容を遺言者が手書きで作成する必要があります。

内容を公証人に伝えれば、文章は公証人が作成してくれます。

すぐに作れるか?

思い立ったらすぐに作ることができます(紙とペンと印鑑があればOK)。

実際には、内容を公証人に伝えたり、スケジュール調整をしたり(予約優先なので、必ずしも公証役場にふらっと出向いたら作ってくれるわけではない)、必要資料を用意(戸籍謄本や財産に関する資料など)する必要がある。

費用

不要

公証人への法定の手数料が必要。

証人を用意してもらう場合や出張してもらう場合には、その費用も必要。財産規模にもよるが、トータルで10万円以上かかることも。

他人に対して内容の秘密を守れるか?

内容を他人に知られずに済む。

証人2人の立ち会いが必要なので、その2人には内容を知られてしまう(信頼できる人に証人をお願いすることが必要です)。

家族に対して内容の秘密を守れるか?

見つけられてしまえば、知られるリスクはある。

存命中は、家族であっても内容を公証役場に照会することはできない。

(ただし、遺言者が持っている公正証書遺言の正本・謄本を見られてしまえば、知られてしまいます。)

紛失リスク・偽造リスク

ある。

ない(遺言者が120歳になる年まで公証役場で保管してくれる)。

データ化され、全国どこの公証役場でも見られるので、大規模災害により作成した公証役場が損壊しても、内容が失われる可能性は極めて低い。

遺言が無効になるリスク

形式上の不備が生じて、遺言自体が無効になるリスクがある。また、内容が不明確な箇所があると、相続人間で争いになる可能性もある。

専門家である公証人が作成するので、形式上の不備で無効になることはない。

ただし、税金面や内容の良し悪し等までアドバイスをもらうことはできない。

相続が発生した後の手間

家庭裁判所にて検認手続きを受ける必要がある(費用と戸籍謄本が必要)。

家庭裁判所での検認手続きは不要。

使われやすいシチュエーション

・ひとまず遺言書を作っておきたい場合(人はいつ何があるか分からないので)

・字は書けるが、余命宣告などをされた場合

・公正証書遺言で正式なものを書くまでのつなぎ

・お金をかけたくない場合

・法的に有効なものを作成したい場合

・手が震えて字が書けない場合や、頭はしっかりしているが寝たきり状態のため自分で遺言書が書けない場合(公証人に病院等へ出張してもらうことも可能です)

・相続発生後、相続人になるべく手間をかけさせたくない場合

 

このように、どちらにも一長一短はあります。

ご自身の意思を確実なものにしたいのであれば、公正証書遺言がおすすめですが、最後の「使われやすいシチュエーション」を参考に、自分に適した方法を選ぶのが良いのではと思います。

まず、つなぎとして自筆証書遺言で書いておいて、その後、腰を据えて公正証書遺言の作成に取り組むこともおすすめです。

なお、どちらの場合でも、上書きリスク(法的に有効な遺言書が2つ以上あれば、日付の新しいものが優先されること)はあります。

民法改正と自筆証書遺言

冒頭にも述べたように、今般の民法改正により、自筆証書遺言に関するルールが以下のように変わりました。

自筆証書遺言の方式の緩和

これまでは、遺言書の全部を手書きで作成しなければならないとされていましたが、改正により、財産に関する部分については手書きでなくてもよくなりました。

具体的には、財産目録(財産の一覧)については、パソコンでの作成や、財産に関する資料(不動産の登記事項証明書や預金通帳のコピーなど)の添付などでよく、本文だけ下記のように手書き作成すればいいので、デメリットであった手間が大幅に削減されました(目録の全ページに遺言者の署名押印は必要ですが)。

 

 第1条 相続人○○に、別紙財産目録1記載の財産を相続させる。

 

この方法による作成は、平成31年1月13日より可能になっています(この日より前に、この方法で作成されたものは無効です)。

自筆証書遺言の保管制度の創設(予定)

これまで、自筆証書遺言は自分で保管しておかなければならなかったので、紛失のリスクがどうしてもつきまとっていましたが、この制度の創設により、紛失のリスクは解消されることになりそうです。

この制度では、あらかじめ作成した自筆証書遺言を本人が法務局に持ち込み、保管を申請します(この時、保管手数料が必要)。

法務局では、原本を保管するとともに、遺言の画像をデータ化し、遺言者の存命中は、いつでも本人が閲覧(原本やデータ)することができる予定です。

そして、実際に相続が発生した後は、財産をもらう人からの請求で、遺言書の写しの交付や遺言書の閲覧ができるとともに、他の相続人等へは遺言書が保管されている旨の通知が行くようになる予定です。

また、この制度を利用することで、家庭裁判所での検認手続きも不要になる予定です。

この制度では、法務局への遺言書の持ち込みの際に、法的に有効かどうかまでは確認してもらえないこと、また本人が法務局に出向かなければならないというデメリットもあります。

なお、保管手数料がいくらかはまだ公表されていませんが、恐らく公正証書遺言のように高額にはならないのではないかと予想されます。

保管制度の開始は、令和2年7月10日からです。

続きは明日

少し長くなってしまったので、続きは明日書きたいと思います。