贈与税の配偶者控除は贈与税以外の税金がかかる!-それでも制度を利用した方が良い場合

 
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婚姻期間20年以上の夫婦間で、【自宅(土地や建物)そのもの】か【自宅を購入するためのお金】を贈与した場合には、最大2,000万円まで贈与税がかからない「贈与税の配偶者控除」という制度があり、これまで何回かご紹介してきました。

配偶者の自宅確保という点で優れた制度であり、本来であれば多額の贈与税がかかるところ、2,000万円までなら無税となる、というメリットがあります。

また、相続前3年以内におこなわれた贈与についても相続財産に加算する必要もありません(2,000万円を超えた部分は加算が必要)。

しかし、デメリットもあり、使わない方がマシなこともあります。

  • 贈与税はかからない代わりに、不動産取得税がかかる(自宅そのものを贈与する場合)。
  • 登録免許税は、相続でもらうよりも5倍かかる(同上)。
  • 夫婦なら【小規模宅地等の特例】(自宅用地の評価額を最大8割減額できる制度)が使える。
  • 配偶者が相続すれば、多くの場合は相続税がかからないか、かなり減額できる(法定相続分か1億6千万円までの取得なら)。
  • 以上により、普通に相続した方が税金が少なくて済むことが多い。

税金面ではデメリットの方が多いのですが、それでも「贈与税の配偶者控除」を使った方がいい場合もあります。

 

配偶者の住まいを早めに確保しておきたい場合

1つは、冒頭でも述べましたが、税金的には不利なことを承知の上で、それでも配偶者の住まいを生前中に確保しておきたいと考えている場合です。

とくに家族仲がよくない場合には、相続の際に遺産分割をめぐって揉めることも予想されます。

遺言書を書くという手段もあり、それはそれで有効なのですが、「遺留分」(遺言書があっても相続人が主張できる最低限の取り分)を主張される可能性もあります。

このような状況では、配偶者の住まい確保が不透明になってしまいます。

近年では「配偶者居住権」という制度もできていますが、自由に売りにくいというデメリットもあります。

そんな時には、「贈与税の配偶者控除」を活用して、持分を少しでも配偶者に事前に移しておくことをおすすめします。

持分を少しでも持っていれば、他の人の意思で自由に売ることはできず、配偶者が住み続けたいと思えば住み続けられます。

不動産取得税や登録免許税といったコストはかかりますが、「安心を得るためのコスト」という考え方もできます。

なお、生前に不動産などを相続人に贈与した場合には、それらを相続財産に含めて、相続分を決めることになりますが、婚姻期間20年以上の夫婦間で自宅(購入資金は含みません)の贈与をしている場合は、

 「その贈与は遺産分割の際に考慮には入れません」

という被相続人の意思表示があったものと取り扱われることになっています。

 

かけたコスト以上に相続税が節税できる場合

不動産取得税や登録免許税といったコストはかかりますが、それ以上に相続税が節税できると試算した場合には、「贈与税の配偶者控除」を使った方がいいかもしれません。

たとえば、このような場合です。

自宅の敷地が100坪(330㎡)超ある場合

自宅の敷地を同居親族が相続した場合は、「小規模宅地等の特例」により評価額から最大8割を減額して相続税を計算できますが、この「8割減額」できるのは、自宅の敷地の場合は100坪(330㎡)部分までです。

それを超える部分については、まるまる相続税がかかります(だから「最大8割」と表現していたのです)。

この「小規模宅地等の特例」が適用されない土地の部分も、「贈与税の配偶者控除」を使うことで、相続財産から省くことができます。

配偶者の税額軽減を使ったとしても、子どもの相続税を節税できる場合

「結局のところ、配偶者は無税で相続できるのだから、使う意味ないんじゃないの?」と思われるかもしれません。

確かに、配偶者の場合はどちらにしても無税となることが多いですが、

  1. 配偶者に生前に自宅を渡す。
     ↓
  2. 被相続人の財産全体が少なくなる。
     ↓
  3. それに伴って家族全体にかかる相続税も少なくなる。
     ↓
  4. 配偶者はどちらにしても相続税はかからないが、子どもが負担する相続税が減る。

というように、子どもの負担を減らせる可能性があります。

 子どもの相続税の節税額>移転コスト(不動産取得税、登録免許税)

となるなら、「贈与税の配偶者控除」を使ってみる価値はあるかと思います。

たとえば、「贈与税の配偶者控除」を使って自宅2,000万円分を贈与し、財産を1億円から8千万円に減らした場合で考えてみます(相続人の中には配偶者もいて、法定相続分通りに相続したと仮定)。

  対策前(財産1億円) 対策後(財産8千万円) 差額
子ども1人の場合 385万円 235万円 ▲150万円
子ども2人の場合 315万円 175万円 ▲140万円

 

移転コストは大体50~100万円程度かかりますので、全体の財産額が多く、多額の相続税が予想される場合は、移転コストをかけてでも「贈与税の配偶者控除」を使ってみる価値はあります。

 

買い替え、建て替えする場合

買い替えや建て替えに際して配偶者の持ち分を入れる場合は、自宅そのものではなく、自宅の購入(建築)資金の贈与となります。

この場合は、移転コスト(不動産取得税、登録免許税)がかからないか、かかったとしても【自宅そのもの】の贈与よりは少なくて済みます(そもそも、端から買い替えや建て替えをするつもりだったのなら、贈与税の配偶者控除うんぬんは関係なく、いずれにしてもかかるコストなのですが)。

この場合は、2,000万円(基礎控除も入れるなら2,110万円)分の持ち分を配偶者に設定してあげる必要があります。

また、子ども世帯との同居を考えるなら、合わせて「住宅取得資金贈与の特例」も使うことで、さらに大きく贈与をすることも可能です(その分、贈与した方は持ち分がかなり小さくはなりますが)。