「代償分割」という遺産分割のしかた
遺産分割協議をするとき、すべての財産をきれいに等分することができれば(それが公平かどうかはさておき)それに越したことはありません。
しかし、財産のすべてが現預金であれば可能ですが、現実はそう上手くはいきません。
不動産など、分割のしにくい財産があると、それらも均等に分けるということは難しいです。
共有にすれば後々処分がしにくくなりますし、売ろうとすれば、そこに住んでいる相続人が困ることになります。
そこで、相続人の1人が財産を取得して、その代わり他の相続人にお金を支払って清算し、金額的に均等になるようにする分け方があります。
これを「代償分割」と言います。
目次
代償分割とは?
代償分割のイメージ
極端な例ですが、相続財産が不動産(評価額5,000万円)しかなく、それをきょうだい2人で分ける場合で考えてみます。
これを均等に分けようと思えば、
- 持分2分の1ずつで共有する。
- 売却して、代金を折半する。
などが考えられますが、冒頭で述べたような問題点もあります。
そこで、きょうだいAがこの不動産を単独で取得し、その代わりきょうだいBに清算金として2,500万円支払うことで、金額上均等に分けることができます。
- きょうだいA:不動産5,000万円ー清算金の支払い2,500万円=2,500万円
- きょうだいB:清算金の受け取り2,500万円
この清算金を「代償分割金」と呼びます。
代償分割金は相続税の対象
この代償分割金を相続人同士でやり取りすると、贈与とか収入になって、贈与税や所得税がかかるのでは?と心配される声もよく聞きます。
しかし、遺産分割協議の結果、代償分割金をやり取りすることになって、その通りの金額をやり取りすれば、贈与税はかかりません。
その代わり、代償分割金を除いた、もとからある正味財産の金額が基礎控除額を超えれば、代償分割金をもらった側にも相続税がかかります。
上の例なら、家族全体で80万円、代償分割金をもらったBには40万円の相続税がかかります。
代償分割のメリット
均等に分けることができる
不動産のように均等に分けにくい財産があっても、代償分割を使うことで「均等に」分けることは可能になります。
それが果たして「公平」かどうかという問題はありますが、この選択肢があることでスムーズに遺産分割をすすめやすくなることもあります。
財産を売らなくてもよい
売却代金を分配する方式だと、その財産を失うことになります。
先祖から受け継いだ財産を次代にも引き継いでいきたい、ということであれば、この代償分割は遺産分割の有力な手段になります。
所得税・住民税・健康保険料の節約にもなる
受け継いだ不動産を売却し、その売却代金を分配する場合でも、代償分割を使った方が所得税や住民税、社会保険料などの節約になることがあります。
共有で相続した後売却したり、遺産分割協議書で売却代金の手残りを分配する(「換価分割」と言います)こととした場合には、相続人それぞれが取り分に応じた売却益に対して所得税・住民税が課税され、さらに社会保険料の計算の基礎にもなります。
また、相続人が専業主婦である場合には、1年限りではありますが、所得が大きくなるため、税金の扶養から外れ、ご主人の税負担も増える可能性があります。
その点、代償分割金は収入にはなりませんので、代償分割金をもらった側はこのような心配はなく、税金や社会保険料の節約することができます(というより余計な出費を避けることができます)。
代償分割のデメリット
お金がいる
代償分割金を支払う側は、代償分割金を支払えるだけの資金力がなければなりません。
預貯金もひっくるめて1人の相続人が相続し、その後他の相続人に代償分割金を支払うなら問題ありませんが、そうでないなら、自腹を切らなければならないかもしれません。
評価額が問題になる
預貯金や上場株式などは残高や時価がはっきりしており、その評価額でもめることはほとんどないかと思います。
しかし不動産については、「一物四価」と言われるくらいで、人や状況によって様々な値段がつきます。
代償分割金を支払う側にとっては、なるべく代償分割金を少なくしたいので、不動産の評価を低めにしたいでしょうし、代償分割金をもらう側にとっては、たくさん代償分割金がほしいので、不動産の評価を高めにしたいと考えます。
この評価をめぐってトラブルになるリスクはあります。
生前にできる対策
代償分割が行われるのは、以下の状況にあることが多いです。
- 財産の構成が不動産などの「固定資産」に偏っている。
- 1人の相続人が特定の財産(とくに実家や家業関連財産)を受け継がなければならない状況にある。
被相続人となる方が、生前にこの現状を把握しているのであれば取り得る対策を挙げてみたいと思います。
遺言書を書く
不均等に分けざるを得ないのであれば、遺言書を書くことで、ある程度それが許容されます。
「ある程度」というのは、各相続人の最低限の取り分である「遺留分」(通常は、法定相続分×2分の1)を侵害しない金額までです。
上のきょうだい2人の例なら、法定相続分2分の1×2分の1=4分の1がそれぞれの最低限の取り分=「遺留分」となります。
仮に遺留分を侵害してしまったとしても、法定相続分よりは少ない金額で済みますので、たくさん財産を相続する側の負担は軽減できます。
生命保険を活用する
代償分割金もしくは遺留分侵害額を支払う側の資力をおぎなう手段として、生命保険に入っておくことも有力な方法です。
受取人を【代償分割金等を支払う側】にしておくと、保険金を使って代償分割金等を支払うことができます。
生命保険金は、一定額をこえた部分は相続税の課税対象ではありますが、「受取人固有の財産」という扱いなので、遺産分割を考える上では被相続人の財産にはカウントされません(財産のほとんどを生命保険につぎ込んでいる場合などは除きます)。
そのため、均等に財産を遺してやりたいからと、財産の取り分が少ない側を生命保険金の受取人にしてしまうと、それで取得金額が均等になっても、「この生命保険金は自分固有の財産だから」と主張され、他の財産を均等に分けるよう主張されることになりますので、注意が必要です。
また、健康上の理由などで生命保険に加入できない場合は、保険料相当額のお金を相続人に贈与し、相続人自身に加入してもらうという手もあります。
もし相続が発生した場合には、保険をかけていた相続人は、保険を解約して、解約返戻金で代償分割金等の支払いに充てることも可能です(ただし、つみたて型の保険で、ある程度の期間はかけておく必要はあります)。