相続税申告を自分たちでも出来そうな5つのパターン
相続税申告の仕事をしていると、
「お金を節約したいから、自分たちで相続税申告をやってみたいんだけど・・・」
「税務署で教えてもらいながら、自分でやってみた!」
「○○さんは自力で相続税申告をやっていたよ」
といった話をちらほら聞きます。
何割の方が、税理士に頼らず、自分で相続税申告をしているのかは分かりませんが、一定割合いらっしゃるようです。
今回は、「こういう場合なら自分たちで何とか相続税申告をできる」と思われるパターンを列挙してみたいと思います。
目次
相続人が1人の場合
相続人が1人の場合は、遺産分割協議が必要ありませんし、税額の按分も必要ありませんので、比較的取り組みやすいのではないかと思います。
相続人が複数人いると、その分集めなければならない書類(戸籍、住民票、印鑑登録証明書など)が増えますし、きょうだい相続ならとんでもない量になります。
しかし、1人なら、そこまでの大変さではありません。
また、相続人が複数人いる場合(とくに配偶者が健在の場合)は、「二次相続」(配偶者の相続)を考慮して、どう分けるかを検討しなければなりませんが、1人しか引き継ぐ人がいなければ、そういう心配をしたくてもできませんので、だいぶ楽かと思います。
土地の評価が簡単な場合または土地がない場合
土地が一か所(自宅など)だけで、「きれいな四角形」(正方形や奥行が深すぎない長方形など)であり、かつ、1つの道路にしか接していない場合
土地の評価は、相続税申告の中でも大変な作業の1つです。
基本的に土地の評価額は、下記の計算式で求めることができます。
【路線価(1㎡当たり)×土地の面積】
しかし、
- 2つ以上の道路に接していたり、
- 間口が狭かったり、
- 奥行が深かったり、
- 「いびつな形」をしていたり、
- ものすごく広かったり、
- 2つ以上の容積率の地域にまたがっていたり、
- 騒音がひどかったり、
- お墓の隣だったり、
- 裏が斜面になっていたり、
- 前の道が狭かったり、
- そもそも公道に接していなかったり、
- 借地(人から借りた土地)だったり、
- 貸地や賃貸用の物件が建っている土地だったり、
- 農地だったり、
- 山林だったり、
すると、これらの条件に合わせて「路線価(1㎡当たり)」を調整する必要があり、そうしないと土地の適正な評価額が計算できず、余計な税金を支払うか、逆に過小評価になってしまい、あとから追徴課税となる可能性があります。
この「調整」は、税理士にとっても難易度の高い仕事であり、
- 図面や資料を取り寄せ、
- 現地を確認し、
- 役所でも確認し、
- 時には不動産鑑定士や不動産業者などの意見も聞き、
- 何度もチェックを行い、
よくよく検討した上で評価額を計算しているのが現状です。
その点、
- 自宅などの宅地であり、
- 「きれいな四角形」(正方形や奥行が深すぎない長方形)をしており、
- しかも1つの道路にしか接していなければ、
基本的には、上の式にあるように、【路線価(1㎡当たり)×土地の面積】だけで適正な土地の評価額を計算することができます。
こういう土地なら、誰が計算しても同じ結果になることが多いです。
また、土地を複数所有していると、評価の大変さは2倍、3倍にもなりますし、遠方にあればもっと大変ですが、1か所だけ(しかも自宅)なら、まだ何とかなるのではないかと思います。
土地を所有していない場合
そもそも土地を所有していない場合は、評価の必要がありませんので、申告にかかる手間はかなり減ります。
「倍率評価方式」で計算できる場合
郊外にある土地については、「倍率評価方式」と言って、下記の計算式だけで土地の評価額を計算できる場合もあります。
【固定資産税評価額×倍率】
※倍率:国税庁が公表。1.1や1.2であることが多いです。
この場合も、一般の方であっても取り組みやすいパターンかと思います。
固定資産税評価額は、「納税通知書」に書いてあります。
ほかの財産が預貯金だけである場合・取引行数が少ない場合
上記のほか、主な財産が預貯金だけである場合は、亡くなった時点での残高を計上すればよいだけなので、かんたんです。
定期預金は「既経過利息」を計算し、元本に加算しなければなりませんが、金融機関に頼めば計算し、残高証明書に記載してくれます。
また、取引行数が少ないと、残高証明書を取り寄せる手間が少なくなりますので、より取り組みやすいです。
上場株式も、残高証明書を取り寄せ、株価を調べれば、評価自体はかんたんですが、残高証明書は【証券会社】と【信託銀行】の両方から取り寄せなければならないので、少し手間がかかってしまいます。
また、非上場株式の評価も、土地の評価と並んで(もしくはそれ以上かもしれません)大変な仕事の1つです。
評価額の計算のしかたがかなりややこしいですし、そこに至るまでの資料あつめや財産評価(その会社が持っている財産も評価しなければなりません)も大変です。
相続税申告を自分でやったという話は時々聞きますが、非上場株式の評価を自分でやったという話だけは、まだ一度も聞いたことがありません(私の浅い経験で申し上げるのも何ですが)。
特例を使うことで税金がゼロになる場合
- 小規模宅地等の特例
- 配偶者の税額軽減
- 障害者控除
などにより、どう計算しても、どう分けても税金がゼロになる場合であれば、多少評価が粗くても、自分で申告をしてもよいのではないかと思います(評価が粗いことが良いとは言いませんが)。
時間がある場合
平日の日中に働いている方や子育て中の方の場合、その空いた時間に相続税申告書をつくるのは困難をきわめるかもしれません。
申告に必要な書類を取り寄せる先は、主に役所や銀行などですが、これらは平日の日中にしか開いていないことが多く(最近は部分的に土日祝日も開けているところが増えてきましたが、まだまだ限定的です)、仕事や育児をしている人にはなかなか厳しい環境です。
郵送によるやり取りも可能ですが、その準備をするのは仕事が終わった後や育児の合間などになりがちで、休息の時間が少なくなってしまいます。
仕事をされている方であれば、有給休暇を取るという手段もありますが、手続きのためだけに貴重な休暇を消化するのも何だかなあ~と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかも、手続きや調査をしなければならないので、休暇なのに休めません。
その点、すでに現役をリタイアされている方や子育てに手がかからなくなった方であれば、相続税申告を10か月かけてゆっくり作ることも可能かと思います。
まとめ
ここまでお読みいただければお分かりかもしれませんが、相続税申告は、確定申告のようにパパっとできる仕事ではありません。
「税務署に行ったら教えてくれるんじゃないの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、教えてくれたとしても、資料はこっちで揃えなければなりませんし、こっちの有利なように親切丁寧に教えてはくれるわけではありません(特例や二次相続など)。
時間があれば何とかできるかもしれませんが、計算を間違っていて「こんなことなら、お金を払ってでも最初から税理士に頼んでいればよかった」となることも少なくありません。
確定申告については自分でされることをおすすめしていますが、相続税申告についてはどこかの段階で税理士に相談されることをおすすめします。