特定の財産・債務以外の財産を相続させることは可能なのか?

 
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相続106

 

相続に関してよくお受けする質問の1つに、こういうものがあります。

「借金は相続させずに、プラスの財産だけを子どもたちに渡すにはどうしたらいいですか?」

「この不動産は費用だけかかって売ることも貸すこともできないので、これだけは子どもたちに相続させたくないがどうしたらいいですか?」

このように、特定の財産や債務以外の財産だけを子どもたちに相続させることは可能なのでしょうか?

 

相続は基本的に0か100

相続は、基本的には「0か100」の世界です。

つまり「まったく相続しない(相続放棄する)」か「プラスの財産もマイナスの財産も引き受ける(単純承認)」のどちらかしかありません。

相続人全体で見れば、好きな財産だけもらっておいて、そうでない財産・債務は引き受けない、という虫のいい話はありません。

※債務と同額の財産額だけ相続する「限定承認」という方法も一応あります。

 

生前の対策で特定の財産だけ渡すことは可能ーただし落とし穴がたくさんあります

何の対策も取らないまま相続が発生すれば、上述の通り、相続放棄するか単純承認するか限定承認するかしかありません。

しかし、生前に対策を取っておけば、特定の財産だけ渡すことも不可能ではありません。
ただし、そこには落とし穴がたくさんあることも忘れてはいけません。

「遺贈(または生前贈与)+相続放棄」という方法

その方法とは、

  1. まず、生前に遺言書を書いておき、特定の財産を特定の人に遺贈できるようにしておきます。
  2. そして実際に相続が発生した場合には、遺言書の内容通りに財産を承継し、残った財産・債務については相続放棄をします。

これによって、相続したい(させたい)財産だけ引き継ぎながら、そうでない財産・債務は引き継がなくて済みます。

また、1については、遺言でわたすのではなく、生前贈与でわたすという方法でもありです。
その場合は、「贈与契約書」を作っておいた方がいいです。

ただし、さきほども述べたとおり、そこには落とし穴がたくさんあります。

落とし穴①:債務がある場合は、遺贈(または生前贈与)が無効になる可能性がある

そもそも、「その遺贈(または生前贈与)は認められない!」と取り消しを主張されたり、無効になったりする場合があります。

それは、債務がある場合です。

多額の債務を逃れたいがために、被相続人と相続人が結託し、プラスの財産だけは遺言や生前贈与により相続人へと逃れさせ、その後相続放棄をしてしまったら、債権者(お金を貸している方)からすればお金の回収が全くできなくなってしまいます。

わざとこういうことをした場合には、債権者から遺贈や生前贈与の無効や取り消しを主張される可能性があります(このように取り消しを裁判所に請求することを「詐害行為取消権」といいます)。

落とし穴②:生前贈与の場合はコストがかかる(とくに不動産)

生前贈与で先にわたしておく場合には、主に税金などのコストが普通に相続するよりもかかってしまいます。

  • 贈与税(「相続時精算課税制度」を使えばある程度おさえることはできます)
  • 不動産取得税(不動産の場合)
  • 登録免許税(不動産の場合。相続:0.4% 贈与:2.0%と5倍もかかります)

落とし穴③:親族に注意喚起が必要

子どもがいる場合には、子どもが相続人となります。

しかし、その子どもが相続放棄をしてしまった場合は、すぐに財産・債務が宙に浮くかというと、そうではありません。

子どもがいない場合や相続放棄した場合には、被相続人の親が第2順位の相続人として相続する権利を得ます。

また、親も相続放棄したり、既に亡くなっていたりする場合は、被相続人のきょうだい(先に亡くなっている場合は甥姪)が第3順位の相続人として相続権が発生します。

もしこれらの親族に相続権が行くことを伝えておかないと、相続したくもない財産・債務を意図せず相続してしまい、迷惑をかけたり、仲が険悪になってしまったりする恐れがあります。

そうならないように、事前に注意喚起しておいた方がいいです。

落とし穴④:生前贈与した場合でも相続税申告が必要になるかも

生前贈与する場合は、贈与税が多額にかかる可能性がありますので、目先の贈与税を抑える方法として、相続時精算課税制度を使うという選択肢があります。

ただしその場合は、実際に相続が発生した時に、残っている財産に生前贈与した財産額を加算しなければなりません。

基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を下回っていれば問題ありませんが、上回っている場合は相続税申告と納税が必要になります。

※この場合の「法定相続人」とは、相続放棄が行われなかった場合に相続権がある人のことをいいます。

なお、この制度を使って贈与税を支払っている場合は、相続税から控除することができます。

もし引ききれなければ、還付を受けることも可能です。