2021年から「ひとり行政書士法人」が設立可能に!ー士業事務所を法人化するメリット・デメリットについて

 

2021年から「ひとり行政書士法人」の設立が可能になる予定です。

2019年12月に行政書士法の改正法が公布され、1年6か月以内に施行されることになっていました。
その中の1つに、行政書士事務所の会社形態である「行政書士法人」を行政書士1名でも設立できる事項が盛り込まれています。

弁護士法人や社会保険労務士法人は以前から1人法人の設立が可能になっており、司法書士法人や土地家屋調査士法人は今年から1人法人の設立が可能になっています。

税理士法人は、今のところ「ひとり税理士法人」というのは作れず、2人以上の税理士がいないと設立ができないようになっています。

今回は士業事務所を想定して、あらためて事業を法人化することのメリットとデメリットについてお話したいと思います。

 

士業事務所を法人化するメリット

法人化のおもなメリットは、やはり税金に関するところが多いです。

所得が多ければ税率は安い

個人事務所なら、所得に応じて5%~45%までの7段階の税率が設定されています(ここに所得税の2.1%分の「復興特別所得税」が加わり、さらに住民税10%と事業税(5%になる業種が多いです)もかかります)。

一方法人の場合は、こちらも所得に応じてとはなりますが、だいたい20~30%程度となります(法人住民税と法人事業税込み)。

法人税はホントに利益の30%なのか?

そのため、所得(売上ー経費)が多い方であれば、法人にした方が支払う税金は安くなる傾向にあります。

逆に言うと、所得がそこまで多くなければ、法人にしない方がいい可能性もあります。

最初の2期は消費税の納税義務がない

設立後、最初の2期は消費税の納税義務がありません。

その意味で、個人事務所で消費税がかかるようになったら、法人化を検討してみてもよいかもしれません。

ただし、インボイス制度(2020年10月から開始)が導入されると、このメリットは実質的に無くなるかもしれません(事業者相手ではない事務所であれば、まだこのメリットは生きるかもしれませんが)。

消費税のインボイス制度について

インボイス制度にどう対応する?

役員報酬を経費にできる

個人事務所であれば、代表者への給与は経費になりません。
売上ー経費=事業利益=「代表者の給与」という考え方になります。

しかし法人にすれば、代表者への給与=役員報酬も経費となります。

この役員報酬にも所得税はかかりますが、役員報酬にたいして丸々税金がかかるわけではありません。

役員報酬を含めた給与には、一定の控除が行われる(給与所得控除といいます)ため、個人事務所よりも税金の課税対象になる部分が少なくなるというメリットがあります。

社会保険に加入できる(というより加入が強制される)

法人の場合は、社会保険(協会けんぽ)への加入をすることができます(というより基本的に加入が強制されます)。

これをメリットと捉えるか、デメリットと捉えるかは、その人次第ですし、士業によっては「健康保険組合」もあり、(加入資格の有無は別として)そちらの方がおとくな場合もあるかと思いますが、一般的なメリットは下記の通りです。

  • 社会保険料は給与の金額によって変動するので、給与額次第では個人事務所であるよりも健康保険料・年金保険料の金額が安くなる。
  • 扶養に入れている家族の分も込みの健康保険料である(厚生年金保険料は扶養に入れている配偶者の分も込み)。
  • 厚生年金保険の方が、将来もらえる年金額は多くなる(と言われています)。
  • 半分は法人が負担し、法人の経費になる。

源泉所得税の天引きが必要ない

個人事務所の士業の場合は、報酬額から所得税を天引きした残りをお客様からいただく形になります(その源泉所得税は、お客様の方で毎月1回もしくは半年に1回納めていただく必要があります)。

しかし、法人であれば天引きする必要がありませんので、その意味で手続きが少し楽になります。

ちなみに行政書士の場合は、個人事務所であっても、天引きが不要なことが多いです(建築に関する申請や届け出、セミナーなどの講師料は天引きが必要です)。

事業年度を好きなように設定できる(変更も可)

個人事務所だと、事業年度は1月1日から12月31日までの1年間(暦年といいます)と固定されています。

しかし法人であれば、1年以内の期間であれば、開始日・終了日を好きなように決めることが可能です(便宜上、1年間で1日スタート・末日終了にしているところが多いですが)。

日本の会社に多い4月1日~3月31日に設定してもよいですし、7月1日~6月30日や10月1日~9月30日などでも構いません。

決算期を繁忙期と被らないように設定することも可能です。

また、あとから決算期を変更しても構いません。

事業年度を変更するには

いろいろな支出を経費にしやすい

「法人が行うことは、すべて事業関連である」との考え方から、個人事務所よりも経費に算入できる幅が広がります。その分、税金は安くなります。

  • 社宅家賃(その代わり、いくらかを役員・従業員にも負担してもらう必要はあります)
  • 法人契約の通信費
  • 法人名義の車両関係費用
  • 飲食費
  • 生命保険料

ただし、家族での外食代などのプライベートな支出は、個人事務所だろうと、法人だろうと経費にはなりませんので、ご注意ください。

 

他にも、赤字が出た場合の繰越期間が法人の方が長いというメリットもありますが、士業事務所では開業初年度や大規模な投資(設備や人材)を行ったというのでなければ、基本的に赤字は出にくいですので、そこまでメリットにはなりにくいかと思います。

 

士業事務所を法人化するデメリット

一方、法人化することで余計なコストや手間がかかることもあります。

法人設立費用がかかる

法人を作る場合は、登録免許税など、設立のための初期費用がかかります。

法人住民税の均等割は必要

赤字となった場合でも、都道府県と市町村に対して、「均等割」という定額の法人住民税の納付が必要になります。

自治体によって差はありますが、あわせてだいたい7~8万円程度です。

法人税申告書を作るのはまあまあ大変

個人事務所に比べると、法人の申告書をつくるのは結構な手間がかかります。

個人事務所であれば、

  • 所得税の確定申告書
  • 青色申告決算書
  • 消費税申告書(消費税がかかる場合)

だけでOKです(確定申告書の情報から、住民税と事業税は勝手に計算してくれます)。

しかし法人であれば、こんなにも多くの書類を作る必要があります。

  • 決算報告書
  • 勘定科目内訳明細書
  • 決算概況報告書
  • 法人税申告書(兼地方法人税申告書)
  • 消費税申告書(消費税がかかる場合)
  • 法人都道府県民税申告書兼法人事業税申告書
  • 法人市町村民税申告書(東京23区の場合は不要)

士業であれば、一般の会社の方に比べると、書類作成には長けている傾向にはありますので、まだ取り組める方も多いかもしれませんが、それでも確定申告よりは大変かと思います。

もし自分でやるのが大変、ということであれば、税理士に依頼することになりますが(税理士法人の場合は自分たちでできますが)、そうなると税理士報酬が必要になります。

個人と法人、両方で会費が必要

資格によって異なるかもしれませんが、少なくとも税理士と行政書士に関しては、士業者個人と士業法人の両方で年会費や入会金などのコストがかかります。

 

会費コストや設立時の費用、法人住民税の均等割、法人税申告の手間(もしくは税理士報酬)などを勘案して、それでも法人にした方が有利であれば、法人化を検討してみてもいいかもしれません。

 

まとめ

私も、来年から行政書士法人をつくろうと思えばつくれる予定ではありますが、今のところそのつもりはありません。

税理士ですので、申告の手間は問題になりませんが、コストを考えるとデメリットのほうが大きいですし、すでに会社(合同会社MTOコンサルティング)を作ってしまいましたので・・・。

気が変わって、「やっぱり行政書士法人をつくろう」となったら、またブログにしたいと思います。