相続時精算課税制度が使いやすくなっています(少しだけ)
「相続時精算課税制度」とは、【60歳以上の父母・祖父母】から【20歳以上の子ども・孫】への贈与について、2,500万円までは贈与税をかからなくする制度です(超えたら、超えた額の20%の贈与税がかかります)。
まとまった財産を贈与しても贈与税がかかりにくいというメリットの一方で、さまざまなデメリットもあったこの制度ですが、2020年の贈与からは少しだけ使いやすくなっています。
「少しだけ使いやすく」というのは、申告時の手間が少し減ったという意味です。
目次
2020年分からの相続時精算課税贈与ー添付書類が減りました
2020年分からの相続時精算課税贈与の変更点は、「添付書類が減った」ということです。
- 受贈者(もらった側)の戸籍
受贈者の氏名・生年月日・親子関係(または祖父母・孫の関係)がわかるもの - 受贈者の戸籍の附票
20歳以降or平成15年1月1日以降の住所がわかるもの - 贈与者(あげた側)の住民票
- 贈与者の戸籍の附票
60歳以降or平成15年1月1日以降の住所がわかるもの
- 受贈者(もらった側)の戸籍
受贈者の氏名・生年月日・親子関係(または祖父母・孫の関係)がわかるもの
このように、これまでは受贈者・贈与者双方で書類を集める必要があり、すごく手間とお金がかかっていましたが、2020年分からは基本的に受贈者の戸籍だけでOKになりました。
※祖父母→孫の贈与であれば、両親(祖父母の子)と孫(両親の子)の戸籍が必要になることもあります。
※「特例事業承継税制」を利用する場合は、株式や事業用財産を承継したことを証する書類も必要になります。
相続時精算課税制度の使いどころ
相続時精算課税制度は、一度にまとまった額の財産を低コストで次世代に移転できるメリットがある一方で、注意すべき点もあります(添付書類の多さもその1つでしたが、そこは緩和されています)。
この制度をつかって贈与した場合は、「暦年贈与」(110万円まで非課税・もらった額に応じて税率が変動)に二度と戻れません。
ただし、たとえば【父→長男】の贈与にこの制度をつかった場合はそうなりますが、【母→長男】の贈与とか、【父→二男】の贈与までは効力はおよびません(あくまで当事者間の贈与についてだけ)。
暦年贈与の場合は、亡くなる3年以内に相続人などにした贈与だけ相続財産に加算されます。
そのため、早いうちから少しずつ贈与を繰り返し、かつ通常であれば相続人になれない人(孫やお嫁さんなど)にも贈与していくことで、相続税の対象となる財産を減らし、相続税の節税につなげることができます。
しかし、相続時精算課税贈与の場合は、何年前のものであろうと、さかのぼって相続財産に加算されます。
また、相続人でない孫にした贈与であっても、相続財産に加算された上、孫も相続税を支払う必要が出てきます。
そのため、この制度は、基本的には相続税の節税にはなりにくいです。
ただし、使い方次第で相続対策に使えることもあります。
使いどころ① 早めに財産を渡したい場合
この制度ができるまでは、まとまった額の財産を承継する機会は相続の時だけでした(暦年贈与でもできなくはないですが、一度に渡せば贈与税が多額にかかりますし、少しずつ渡そうとすれば時間がかかります)。
しかし、この制度ができたことで、「生前の相続」のようなことができるようになりました。
早めにわたしておくことで、子ども世代が必要なタイミングで財産を有効活用できたり、相続争いを未然に防いだりすることが可能です。
「この財産はこの人に是非わたしたい」という強い希望があるなら、この手法も選択肢に入れておくといいかもしれません。
使いどころ② 値上がりしそうな財産や収益を生む財産を贈与したい場合
相続時精算課税贈与をした財産は、相続財産に加算し、あらためて相続税を計算しますが、この時加算される金額は【相続時の時価】ではなく、【贈与時の時価】です。
そのため、将来値上がりしそうな財産を早めに贈与しておくことで、結果的に節税につなげることができます。
また、収益を生む財産も早めに贈与しておけば、贈与者側での財産の蓄積が止まりますので、やはり節税につなげることができます。
たとえば、下記のような財産に向いています。
- 同族会社の株式(代替わりの際、退職金を支払って株価を圧縮させてから贈与すると尚良しです)
- 近い将来、幹線道路が開通する予定の土地
- 収益物件