「相続したくない財産だけ相続しない」ことはできる?

 
 

さて、問題です。

被相続人が残してくれた財産の中で、欲しい財産だけ相続し、そうでない財産は相続しないということはできるのでしょうか?

 

答えは「0か100」(その間はあり得ない)

答えは、「No」です。

相続するのであれば、すべての財産・債務を相続人の間で分け合う必要があります(相続人の間で、これは○○がもらう、あれは●●がもらう、といったことを決めることはできますが)。

もし相続したくないのであれば、「すべての財産・債務を引き継がない」ということを家庭裁判所に申し出なければなりません(「相続放棄」と言います)。

つまり、「0か100」の二択なのです。
現状では、いいとこ獲りはできないようになっています。

※一応、債務と同額の財産までしか相続しない「限定承認」という方法もあります。
 
 

だれも引き継がない財産は「未分割財産」となります

とは言っても、売りたくても売れず、使い道もない不動産などは特にだれも引き継ぎたがらず、宙に浮いてしまう形になります。

このような承継者が決まっていない財産は「未分割財産」と呼ばれます。

では、承継者が決まっていなければ、その財産にかかる税金は免れることができるかというと、それもできません。

相続税

相続税の計算においては、承継者が決まっていない財産については、いったん相続人全員が法定相続分で相続したものと仮定して(相続人が妻と子ども2人という構成なら、妻2分の1・子ども各4分の1ずつ)、相続税を計算します。

そのため、未分割財産に対しても相続税の負担が発生します。

また、未分割財産に関しては、下記の特例を受けることもできないので、注意が必要です(他にもありますが省略します)。

  • 配偶者の税額軽減
  • 小規模宅地等の特例

※ただし、最初の申告で「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類も一緒に出し、3年以内に分け方が決まれば、あとから受ける余地はあります。

固定資産税(不動産の場合)

不動産の分け方が決まっていなくても、市町村は固定資産税の支払いを待ってはくれません。

自治体から「固定資産税の納税代表者変更届」(名前は市町村によって異なるかもしれません)というものが封書で届き、誰が固定資産税を納税するかを届け出る必要があります。

ちなみに、この届出で納税代表者になったからといって、その不動産の所有者になるわけではありません。

所有者になるかどうかは、別途遺産分割協議をして、決める必要があります。

 

「誰も引き継がない」ことへの生前の対策

もし、いまお持ちの財産の中に、相続人のだれも引き継いでくれなさそうな財産があるとしたら、生前にどういう対策をしておくとよいでしょうか?

売る

一番シンプルなのは、「売る」ことです。

この場合、売った方(前所有者)に対して譲渡所得税がかかりますが、いくばくかでもお金に換わるので、相続人には喜ばれます。

欲しい人に生前贈与/遺贈する

もし、相続人でない親戚や知り合いの中で、その財産を引き継いでもいいよ、という人がいるなら、タダであげるのも手です。

自分が亡くなってからあげたい場合は、遺言書で承継者に指定してあげます(「遺贈」と言います)。

税金については、下記の通りです。

  • 生前贈与の場合は、贈与税がかかります(子どもや孫にあげるより税率は高めになります)。
  • 遺贈の場合は、相続税がかかります(相続人が相続する場合の2割増しになります)。
  • 財産が不動産の場合は、不動産取得税がかかり、登録免許税が相続人が相続する場合の5倍になります。

いずれも、相続人などがもらうよりも高めに設定されているのがネックです。
納税資金の分だけ、お金もくっつけて贈与/遺贈してあげると親切かもしれません(とくに不動産を上げる場合は)。

生前贈与(贈与税)と遺贈(相続税)のどちらが有利かについては、その他の財産状況や対象財産の評価額などにもよりますので、一概には言えませんが、一般的には遺贈であげる方が税金(相続税)は有利なことが多いです。

ただし、いつその人の手に渡るか予想がつかないのはネックですが・・・。