子どものいない夫婦には「相互遺言」がおすすめ

子どもがいない夫婦において、夫がさきに亡くなった場合は、妻と夫のきょうだい(または甥姪)が相続人となります(両親はすでに亡くなっている前提)。

妻がさきに亡くなった場合も、同様に夫と妻のきょうだい(または甥姪)が相続人となります。

つまり、配偶者が亡くなった場合には、配偶者のきょうだいと財産の分け方をめぐって話し合いをしなければならないのです。

お互いに仲がよかったり、配偶者のきょうだいが「お義姉さん(お義兄さん)が全部相続したらいいよ」と言ってくれたりしたら、話はスムーズにまとまるのですが、かならずそうなるとは限りません。

配偶者のきょうだいにも4分の1の法定相続分があり、それを主張され紛糾した場合には、最終的には4分の1の相続分を渡さなければなりません。

また、きょうだいや甥姪が全国に散らばっている場合は、遺産分割協議書への署名・捺印(実印)をもらうのにも大変苦労することになります。

そのため、子どものいない夫婦においては、遺言書を「お互いに」書いておくことを強くおすすめします。

 

子どものいない夫婦が遺言書を書いておけば遺留分の心配もない

遺言書でだれか1人に自分の全財産を相続(遺贈)させることとした場合でも、法定相続人には最低限主張できる取り分=「遺留分」があります。

遺留分を主張されない保証はありません(遺留分放棄という手段はありますが)。

しかし、これが認められているのは、配偶者や子ども(または孫)、両親などが相続人となっている場合だけです。

そのため、きょうだいや甥姪が相続人となる場合には、遺言書を書いておくことで、配偶者にすべての財産を相続させることが可能になります。

そうすることで、残された配偶者にたいへんな思い(配偶者のきょうだいとの話し合い)をさせずに済みますので、おすすめです。

 

夫婦で遺言書を書く場合の注意点

それぞれで作成する必要がある

1枚の遺言書に、夫婦それぞれの遺言を収めることはできません。

夫婦それぞれが別個の遺言書を書く必要があります。

なるべく同時に書く

年が離れている(10歳差とか20歳差など)ならともかく、年齢が近い場合はなるべく同時に書くようにしましょう。

「夫だけ先に書いておいて、私(妻)は夫が亡くなったあとに書こう」と考えていても、その通りにならない(妻がさきに亡くなる可能性だってある)ですし、夫が亡くなるころには妻もかなりの高齢で、遺言書を書くのが難しくなっている可能性もあります(逆も然りです)。

予備的遺言を忘れずに

夫婦がおたがいに、自分の全財産を相手に相続させる旨の遺言書を書いていた場合に、その相手がさきに亡くなってしまったとき(飛行機事故などで同時に亡くなった場合も含みます)は、相続させるはずだった財産が宙に浮いてしまいます(このときは、法定相続人であるきょうだいや甥姪による遺産分割協議で分け方を決めます)。

そうなってしまったら、書き換えをしてもよいのですが、かなりの高齢になっている場合にはそれができない可能性もあります。

また、きょうだいや甥姪の手を煩わせる可能性もあります。

そうならないように、予備的遺言はかならず入れるようにしましょう。

遺言書には「予備的遺言」も書いておきましょう

相続予定の財産(とくに不動産)の行き先を決めておくと尚良し

自宅を夫が所有していて、夫婦で遺言書を書いた(お互いに全財産を相続させる内容)場合を例にします。

この場合で、夫がさきに亡くなった場合は、妻は自宅を相続することになりますが、妻が書いた遺言書には自宅をどうするかが決められていないことが多いかと思います。

そうすると、この自宅がやはり浮いてしまいますので(妻のきょうだいや甥姪が遺産分割協議で分けなければならない)、もし自宅を所有していたら誰に相続させるかを指定しておくと尚良しです。

書き方としては、次のような方法があります。

【方法1】
遺言者は、その死亡の時において、下記財産を所有している場合には、これを妹△△に相続させる。
(土地の表示)

【方法2】
遺言者は、前条までに記載の財産を除く、その死亡の時において有する一切の財産を、妹△△に相続させる。

方法1は不動産におすすめ、方法2はその他の財産(預金など)におすすめです。

 

まとめ

なお、「自分(夫)が亡くなったら、全財産を妻に相続させるが、そのあと妻が亡くなったら、その財産は自分の弟に相続させてほしい」というような指定はできません(書いてもいいですが、法的な効力はもちません)。

もしそのようにしたい場合は、妻の遺言において行き先を指定してもらう必要があります(上述の通り)。

もしくは、遺言書ではなく、いま少しずつ注目を集めてきている「民事信託」(「家族信託」と表現することもあります)を利用する手もあります。

これにより、まず妻が財産を手にし、妻が亡くなったら弟へ、という設計の仕方ができます。

この「民事信託」については、追々お話をしていきたいと思います。
(今後私が取り組んでいきたい分野でもあります。)