相続人がいなかったら、相続財産はどこへ行く?

誰かが亡くなった場合に、相続人となりうる人は、民法によって決められています。

  1. 配偶者がいれば、配偶者はかならず相続人になります。
  2. 配偶者以外に相続人となりうる人は、次のとおりです。
    ①子どもがいれば、子どもが相続人になります。
     先に亡くなっている子どもに子ども(孫)がいれば、その孫が相続人になります。

    ②子どもも孫もいなければ、親が相続人になります。
     先に親が亡くなっていて、その親(祖父母)が健在なら、その祖父母が相続人になります。

    ③子・孫や両親・祖父母もいなければ、きょうだいが相続人になります。
     先に亡くなっているきょうだいに子ども(甥姪)がいれば、その甥姪が相続人になります。

しかし、きょうだいも甥姪もおらず、遺言書で承継者の指定もなければ、亡くなった人の財産はどうなるのでしょうか?

 

被相続人と縁のあった人が分与を請求できる・・・が手続きがややこしい!

相続人となる人が誰もいない場合、被相続人と生前に縁のあった人(=特別縁故者)が財産の分与を求めることができます。

特別縁故者には、例えば次のような人たちが該当します。

  • 被相続人と生計を一緒にしていた人
  • 内縁関係にあった人
  • 療養看護につとめた人(面倒をみた人)
  • その他、生前に縁のあった人(交流のあったいとこなど、相続権のない親族など)

ただし、分与にいたるまでには、何段階か手順をふまなければなりません。

家庭裁判所に「相続財産管理人」を選任してもらう

まず家庭裁判所に、被相続人の相続財産を管理・処分してもらう人を選任してもらいます。

これを「相続財産管理人」といいます。

選任の申し立てができるのは、次のような人たちです。

  • 特別縁故者
  • 特定遺贈(特定の財産を遺言でもらうこと)を受けた人
  • 債権者(被相続人にお金を貸していて、返してもらいたい人です)
  • 検察官

申し立てに必ずかかる費用は、

  • 収入印紙800円
  • 官報公告料(国の新聞である「官報」への掲載料です)4,230円
  • 連絡用の郵便切手
  • 合計:5,030円+α です。

ただし、財産管理に必要な費用や管理人の報酬を相続財産からまかなう必要があり、相続財産で不足するようであれば、申し立てた人が必要額をあらかじめ納めなければなりません(数十万円ほど)

また、相続人がいないことを示すための戸籍謄本や住民票、財産に関する資料などを申立書と一緒に提出する必要があり、とても大変です(弁護士や司法書士などの専門家に依頼することもできますが、費用がかかります)

相続財産管理人に選ばれるのは、公平性を期すために、地域の弁護士であることが多いようです。

特別縁故者が相続財産分与の申し立てを行う

選任された相続財産管理人は、次のような仕事を行います。

  • 「債権者や受遺者(遺言で財産をもらう人)がいたら申し出てください」という公告をする。
  • 債権者や受遺者に支払いや分配をする。
  • 「自分は相続人だという人がいたら名乗り出てください」という公告をする。

ここまでやって、相続人だという人がいなければ(ここまで最低10か月ほどかかります)、特別縁故者が相続財産分与の申し立てをすることができます。

申し立てに必要な金額は、収入印紙800円分+連絡用の郵便切手代だけです。

また、書類は申立書と申し立てをする人の住民票などです。

ただし、気をつけないといけないのが、申し立てできる期間です。
「自分は相続人だという人がいたら名乗り出てください」という公告で、名乗り出ることができる期間が終了してから3か月以内です。

これを過ぎてしまうと財産を受け取ることができなくなってしまいます。

 

残った財産は国のもの

特別縁故者もいなかったり、分与してもなお財産が残ったりした場合は、最終的に国に帰属することになります。

 

特別縁故者の相続税

特別縁故者が相続財産の分与をうけた場合も、相続税がかかることがあります。

財産額が基礎控除額を超えた場合です。
ただし、法定相続人はゼロなので、基礎控除額は3,000万円となります(3,000万円+600万円×0人)。

また、特別縁故者にかかる相続税は、通常の2割増しとなります。

 

まとめーだから遺言書を書いておきましょう

特別縁故者となる人がいれば、その人が財産を受け取ることも可能ですが、見ていただいたように、1年以上の時間がかかり、費用は数十万円かかり、提出する書類もたくさんあります。

人によっては棚ぼたで財産をもらえるとはいえ、特別縁故者となる人には結構な負担をかけることになります(専門家に頼むことで手間は減らせますが、さらにお金がかかります)

「国に帰属するくらいなら、あの人に財産を引き継いでほしい」という思いがあるなら、遺言書を書いておくことを強くおすすめします。

遺言書を書いておくことで、余計な時間も費用も手間もかけさせることがなくなります。