遺言書と死因贈与の比較ー死因贈与は手軽だが、デメリットもあります
8月28日の記事で、3タイプの遺言書の比較をしましたが、もう1つの選択肢として「死因贈与契約」というものがあります。
遺言書と死因贈与の比較についても見てみたいと思います。
目次
死因贈与とは?
死因贈与とは、贈与者(財産をあげる側)と受贈者(財産をもらう側)との間で、「贈与者が亡くなったら、指定した財産を受贈者にあげる」という契約を結ぶことを指します。
遺産分割協議や遺言書と同じように、人が亡くなったことが原因で財産の移動が行われるので、受贈者には相続税がかかる可能性があります。
一方で、遺言書が遺言者の一方的な意思表示であるのに対し、死因贈与は贈与者・受贈者双方の合意で成り立っているという違いがあります。
詳しくは下記の記事もご参照ください。
遺言書と死因贈与の比較
遺言書と死因贈与についても、様々な観点から比較をしてみたいと思います。
公正 証書 |
自筆証書 | 秘密 証書 |
死因 贈与 |
||
保管制度利用有り | 保管制度利用無し | ||||
法的効力リスク(法的に効力の無い遺言書を作ってしまうリスク) | 〇 | × | × | × | △ |
未発見リスク | △ | 〇 | × | × | 〇 |
紛失リスク | 〇 | 〇 | × | × | 〇 |
改ざんリスク | 〇 | 〇 | × | 〇 | 〇 |
上書きリスク | × | × | × | × | 〇※ |
内容を誰にも知られないようにできるか | × | × | △ | 〇 | △ |
コスト | × | △ | 〇 | △ | 〇 |
作成の手間 | × | △ | △ | △ | 〇 |
検認の要否 | 〇 | 〇 | × | × | 〇 |
※〇→△→×の順に、各リスクや懸念事項に対する強さを表しています。
8月28日の記事で列挙した事項で比較をしてみました。
法的効力リスク
- どんな財産を死因贈与するのかの指定
- 贈与者が「私が亡くなったらあげます」という意思表示をし、受贈者が「もらいます」という意思表示をしている。
- 契約時に贈与者の判断能力がしっかりしている。
- 年月日の記載
これらを具備していて、贈与者・受贈者双方の署名・押印があれば、法的効力のない契約書を作ってしまうリスクは、遺言書(自筆・秘密)よりは低いかと思われます。
未発見・紛失・改ざんリスク
2者による契約なので、それぞれ1通ずつ契約書を保管するのが普通です。
そうであれば、発見されなかったり、紛失してしまったりすることは、そうそう無いかと思われます。
また、贈与者・受贈者双方で1通ずつ契約書を保管しているので、第三者が改ざんすることも難しいかと思われます。
上書きリスク
遺言書は、どのタイプであっても、一度書いた遺言書を撤回したり、書き直したりすることができます。
死因贈与についても、贈与者が亡くなる前であれば撤回は可能です。
ただし、「負担付死因贈与」(死因贈与する代わりに、「贈与者の生活の面倒を見る」などの義務や負担を課すこと)である場合は、この義務や負担が契約通り果たされているのであれば、撤回が難しいので、注意が必要です。
内容を誰にも知られないようにできるか
死因贈与契約書は、まず受贈者が契約当事者なので、「贈与者が亡くなったら財産をもらえる」ということが分かっています。
また、公正証書遺言や保管制度を利用する自筆証書遺言のように、外部に見せる機会はありませんが、自宅で保管するのであれば、誰かに見られる可能性はあります。
コスト・作成の手間
契約書は全文をパソコン作成することができ、名前も印刷したものでも可能です。
(実務上は、後々のトラブルを避けるために、名前のところだけ贈与者・受贈者の署名・押印を行います。)
また、公証役場や法務局に保管するわけでもないので、コストもかかりません。
検認の要否
贈与者・受贈者双方の契約なので、家庭裁判所での検認も必要ありません。
不動産を死因贈与する場合は税金面で不利になる
遺言書と比較してみると、いいことづくめに見えますが、不動産を死因贈与する場合は注意が必要です。
不動産を死因贈与すると、次のような税金面のデメリットがあります。
- 不動産取得税がかかる
- 登録免許税が遺産分割協議や遺言書で引き継ぐよりも多くかかる。
(遺産分割協議や遺言書:0.4% 死因贈与:2%)
まとめ
死因贈与は、手軽さや確実性の面で、遺言書よりも有利ですので、
- 確実にこの人にこの財産を渡したい
- 余命いくばくもなく、遺言書を作成する猶予もないほど切羽詰まった状況である
といった場合には、選択肢に加えてもよいのではないかと思います。
ただし、負担付贈与の場合は撤回が難しかったり、承継の際のコストがかかったりする点は、重々ご承知おきいただければと思います。