自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の比較

昨日(8/27)の記事で秘密証書遺言について取り上げましたが、遺言書の3類型(自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言)について、比較をしてみたいと思います。

 

3つの遺言書の比較

3つの遺言書の類型について、様々な観点から比較をしてみたいと思います。

  公正証書 自筆証書 秘密証書
保管制度利用有り 保管制度利用無し
法的効力リスク(法的に効力の無い遺言書を作ってしまうリスク) × × ×
未発見リスク × ×
紛失リスク × ×
改ざんリスク ×
上書きリスク × × × ×
内容を誰にも知られないようにできるか × ×
コスト ×
作成の手間 ×
検認の要否 × ×

※〇→△→×の順に、各リスクや懸念事項に対する強さを表しています。

法的効力リスク

公正証書の場合は、公証人が法的に効力のある形式に仕上げてくれますので、内容の不備により無効となるリスクはありません。

ただし、遺留分や相続税の節税・納税の観点から問題のないものが作れるかどうかについては、別問題です(そういう相談までは公証人はのってくれません)

その他については、いずれも自分で書かなければならず、内容の確認も行われないので、無効となるリスクが存在します。

未発見・紛失リスク

公正証書の場合は、公証役場で保管されるため、紛失リスクはありませんが、相続人に発見してもらえない可能性があります。

自筆証書遺言の保管制度を利用している場合は、相続発生時に、あらかじめ指定した人に遺言書が保管されている旨の通知が行われますので、唯一未発見リスクがない制度と言えます(ただし、運用は2021年以降の予定)

なお、保管制度を利用しない自筆証書遺言以外については、関係機関(公正・秘密→公証役場 自筆→法務局)で検索をかけることで、有無を確かめることができます(ただし、秘密証書の場合は、作ったかどうかが分かるのみで、遺言書そのものは遺言者本人が保管しています)

改ざんリスク

保管制度を利用しない自筆証書以外であれば、改ざんをされるリスクはありません。

上書きリスク

上書き(後から新たな遺言書を作ること)のリスクは、全てのタイプに存在します。

法的に効力の有る遺言書が複数見つかった場合は、最も新しいものが有効になります。

内容を誰にも知られないようにできるか

公正証書の場合は公証人と証人2名に、保管制度を利用する自筆証書の場合は法務局の担当職員に、それぞれ内容を知られてしまいます。

保管制度を利用しない自筆証書の場合は、生前中に見つからなければ内容を秘密にはできますが、見つかるリスクがないわけではありません。

秘密証書なら、遺言者本人が封印をした上で公証役場に持ち込みますので、公証人らに内容を見られることはありません。

コスト

それぞれのコストは下記の通りです。
(遺言書を作成するために必要な資料の収集コストは含んでいません。)

種類 金額 備考
公正証書

・公証人手数料:通常、数万円~10万円前後(財産が多ければ、20万円、30万円になることもあります)

・証人を手配してもらう場合の謝礼
:5,000~10,000円程度/1人

財産額や財産を承継させる人数によって変わります。

手数料は「公証人手数料令」で定められています。

自筆証書
(保管制度利用有り)
保管申請手数料:3,900円 3,900円分の収入印紙を用意する必要があります。
自筆証書
(保管制度利用無し)
0円  
秘密証書

・公証人手数料:11,000円

・証人を手配してもらう場合の謝礼
:5,000~10,000円程度/1人

手数料は「公証人手数料令」で定められています。

 

作成の手間

公正証書の場合は、財産や相続人・受遺者に関する資料を集め、資料のやり取りや内容確認、スケジュール調整のために公証人と何回かラリーする必要があり、完成までに時間がかかります。その代わり、文書を自分で書く必要はありません(署名・押印のみ)

自筆証書の場合は、財産目録の部分はパソコン作成等が可能になったものの、本文はいまだに手書きする必要があります。また、保管制度を利用する場合は、予約を取って、法務局に出向く必要があります。

秘密証書の場合は、全文をパソコン作成することが可能(代筆もOK、ただし署名・押印は自分でする必要あり)ですが、予約を取って、法務局に出向く必要があります(証人を自分で手配する場合は、証人2名のスケジュール調整も必要)

手間については、いずれも何らかの手間ひまはかかってしまいます。

検認の要否

公正証書と保管制度利用の自筆証書は検認不要ですが、秘密証書と保管制度未利用の自筆証書は家庭裁判所で検認を受ける必要があります。

 

それぞれの弱点を補う方法

どの方式であっても、それぞれ一長一短があります。

それぞれの方式の弱点を補う方法を挙げてみたいと思います。

専門家に相談・手伝ってもらう

お金はかかりますが、専門家(弁護士、行政書士、司法書士、税理士など)に手伝ってもらうことで、それぞれのリスクを低減させることができます。

  • 法的効力リスク
  • 未発見リスク
  • 改ざんリスク
  • 上書きリスク
  • 作成の手間

銀行のサービスを利用する

これもお金がかかることではありますが、銀行の貸金庫や「遺言信託」などのサービスを利用することで、未発見リスク・紛失リスク・改ざんリスクを大きく低減させることが可能です。

信頼できる人に証人になってもらう

公正証書や秘密証書の作成で必要な証人2名を自分で手配する場合は、信頼のおける人にお願いするのがいいかと思います。

相談した専門家に証人になってもらっても構いません(法律で守秘義務が課されています)

 

上記の対策により、次のようにある程度弱点を補うことが可能です(黄色の部分)

  公正証書 自筆証書 秘密証書
保管制度利用有り 保管制度利用無し
法的効力リスク(法的に効力の無い遺言書を作ってしまうリスク) × × ×
未発見リスク × ×
紛失リスク × ×
改ざんリスク ×
上書きリスク × × × ×
内容を誰にも知られないようにできるか × ×
コスト ×
作成の手間 ×
検認の要否 × ×

 

 

まとめ

いずれの方式も、財産の多寡や年齢、家庭状況により、向き・不向きがありますし、メリット・デメリットもあります。

デメリットについては、ある程度対策を取ることもできますので、どれが自分に向いているかも含めて、一度専門家にご相談ください。

当事務所でも遺言書に関するご相談を受け付けております。