相続税対策のために不動産を買う(建てる)ことの仕組みと是非について

相続税の節税対策のために行われる最もポピュラーな手法の1つに、「不動産の購入」というものがあります(もしくは、もともと持っている土地の上に不動産(建物)を建築)。

不動産を購入(建築)することがなぜ相続税の節税につながるのかについて解説してみたいと思います。

 

不動産を購入(建築)すると評価額がガクンと下がる

結論から言うと、

不動産を購入(建築)すると評価額がガクンと下がる

からです。

例えば、1億円の現金だけを持っていたとします。

仮にこの状態で相続が発生すれば、現金1億円に対してそのまま相続税がかかってきます。

しかし、現金1億円を使って、

  1. 土地を5,000万円で購入し、
  2. その土地の上に建物を建築したとすると(建築費5,000万円)、

相続税は【土地5,000万円+建物5,000万円=1億円】に対してかかるかというと、そうではありません。

土地は時価の約8割で評価される

まず土地については、地域にもよりますが、【路線価×面積】で計算されます。

路線価図です。数字は、その道に面する土地1㎡当たりの単価(千円単位)を表しています。

この路線価は、時価の約8割に設定されているため、【路線価×面積】で土地を評価すると、購入金額の8割程度になります(売買金額は需要と供給で決められるところもあったり、個別の事情があったりするので、必ずその通りになるとは限りませんが)。

そのため、上の例の土地(購入金額5,000万円)についても、5,000万円×80%=4,000万円くらいの評価額となります(売買が時価で行われているという前提)。

建物(新築)は建築金額の5~7割で評価される

次に建物については、【固定資産税評価額】が【相続税評価額】としてそのまま使われます。

固定資産税納税通知書の見方

この固定資産税評価額は、新築の場合、建築費用の5~7割程度の金額となります(構造などにより多少異なります)。

そのため、上の例の建物(建築費用5,000万円)だと、5,000万円×60%=3,000万円くらいの評価額になります。

人に貸すとさらに評価額が下がる

このように、現金1億円が土地と建物に変わるだけで、7,000万円(土地4,000万円+建物3,000万円)にまで評価額が下がります。

この土地付建物を他人に賃貸することで、さらに相続税評価額を下げることができます。
人に貸すと、所有者はその土地・建物を自由に使うことができなくなるため、それを評価額に反映させるためです。

  • 土地については、地域にもよりますが、ここから更に1~3割程度評価額を落とすことができます
  • 建物については、全国共通で、ここから更に3割評価額を落とすことができます

そのため、上の例で、新築した建物を他人に賃貸したとすると、

  • 土地:評価額4,000万円×(1ー20%)=3,200万円
  • 建物:評価額3,000万円×(1ー30%)=2,100万円
  • 合計:3,200万円+2,100万円=5,300万円

というように、最終的に現金1億円→賃貸用不動産5,300万円に変わることになります。

これだけ評価額がガクンと下がると、相続税へのインパクトも大きいです。
予想される税率が40%の人なら1,880万円、30%の人でも1,410万円もの節税効果があります。

ちなみに、ローンを組んで購入・建築したとしても効果は同じです。
プラスの財産(賃貸用不動産)5,300万円とマイナスの財産(ローン)1億円の両方が立ち、差し引きするとマイナス4,700万円となり、現金で購入・建築した場合と同じになります。
(違いは、ローンの利息があるかないかだけです。)

 

相続税の節税対策のために不動産を購入(建築)することはいいことなのか?

このように、相続税の節税という面から見ると、不動産を購入(建築)することはいいことのように思えますが、落とし穴がいくつかあります(ここでは賃貸用不動産を前提にお話します)。

不動産経営であることを忘れないように

確かに不動産を購入・建築して、人に貸すことで相続税は安くなりますが、そこだけに囚われてはいけません。

まず借り手がつかないといけませんし、その後も空室が発生しないように(発生してもすぐに埋まるように)経営努力をしなければなりません。

またローンを組んで購入・建築したのであれば、きちんと返済していけるかどうかも気にしなくてはなりません。

空室リスクや返済の問題を少しでも小さくできるよう、購入・建築する前に、よくよく考えておく必要があります。

出口戦略も考えておく

目先の相続税を節税できるのはいいことなのですが、承継した相続人が引き続き不動産経営をしていかなければならないことも忘れてはいけません。

また、ローンを組んでいる場合は、そのローンも相続人が返していかなければなりません。

  • 承継予定者がきちんと不動産経営をやっていける資質があるか
  • 誰も不動産経営をやりたがらない場合、売ってお金に換えられるか(ローンが残らないように売れるか)
  • 将来にわたって借り手が付く物件か

相続の後のことも考えておくようにしましょう。

賃料が年々蓄積していけば節税効果は薄れる

不動産経営が順調にいけば、今度は賃料収入である現金が所有者に年々蓄積されていきます(好ましいことなのですが)。

現金が蓄積されていくと、いったん下がった財産総額がもとに戻っていき、節税効果は薄れていきますので、例えば次のような対策をしておくことが大切です。

  • 不動産の購入・建築による節税効果は、購入・建築後すぐに相続が発生したという前提での話であること(10年先くらいまでシミュレーションしておく)。
  • 現金が蓄積されすぎないように対策する(現金を贈与するか、「相続時精算課税制度」を使って不動産そのものを贈与し、賃料収入を子どものものにする)。

不動産による相続税対策が否認される事例も(税制改正リスクにも注意)

近年の相続税の税務調査において、不動産の購入を使った相続税対策が否認され、税務訴訟においても納税者側が負ける例がいくつか出てきています。

パターンとしては、下記の通りです。

  1. 相続の直前に不動産を購入する。
  2. 相続発生
  3. 税法で認められた方法により不動産の評価額を計算し(購入金額よりも大幅に低い)、相続税申告する。
  4. その後、相続人が不動産を売却する(購入金額とそう変わらない金額で)。

1つ1つの行動や評価の仕方について、法律的にダメなものはありませんが、あまりに意図的で極端なやり方だったので、否認されたのだと思われます。

通常の資産運用や不動産経営などをする分には問題ないと考えられますが、今後の税制改正などにより節税効果が薄れる(あるいは全く無くなってしまう)可能性もなくはありません。

 

まとめ

このように、不動産による相続税の節税対策は効果抜群な半面、リスクもたくさんあります。

遊んでいる土地や収益性の低い土地がある場合は、その有効活用という意味では何かを建てるのもいいかもしれませんが、「目先の節税対策」だけでなく、より広い視野をもって不動産の購入・建築を考えるようにしましょう。