相続税対策のために法人化をしても税金から逃れられるわけではない
相続税対策の1つに、「法人化」という手段があります。
個人の財産を会社に移転させることで、毎年の収入に対する税金(所得税等や法人税等)を減らしつつ、個人の所有財産を圧縮させて相続税の節税を狙うというものです。
個人の財産は、主に不動産(特に収益物件)であることが多いですが、有価証券や現預金を移すこともあります。
上手くやれば確かにこれらの目的を達成することは可能ですが、税金から完全に逃れられるかというと、そうでもありません。
目次
法人化のメリット・デメリット
法人化のメリット・デメリットについては、色んなところで散々言われていることではありますが、あらためて列挙してみたいと思います。
メリット
- 法人には相続が発生しないので、申告や名義変更などの相続手続きが楽になる。
- 所得(収入-経費)が多いなら(目安として約1,000万円)、所得税等よりも法人税等の方が安い(役員報酬や保険料などを経費にすることでの節税も可能です)。
- 各種所得の黒字・赤字を法人内で相殺できる(個人の場合はできるものとできないものとがあります)。
- 株式(合同会社の場合は出資持分。以下同じ)を好きな単位で贈与することができる(個人の財産でもできなくはありませんが、共有状態になる恐れがあり(特に不動産)、手間もかかります)。
- 万が一の際、「死亡退職金」を出すことができる(生命保険金とは別枠の非課税枠があり、株価の引き下げ効果や法人税等の節税効果もあります)。
デメリット
- 設立費用がかかる(合同会社:6万円~ 株式会社:24.2万円~+司法書士・行政書士への報酬)。
- 所得が少なければ、所得税等よりも法人税等の方が高くつく(資本金額にもよりますが、法人住民税の均等割として最低でも年間7~8万円程度は必要です)。
- 法人税の申告が必要になる(個人の確定申告と比べると難易度は高い)。
- 個人から法人への財産の移転に際して、個人(及び法人)に税金や移転コストがかかることがある(後述)。
個人から法人に財産を移転させると税金や移転コストがかかってしまう
個人から個人へ財産を移転(相続、贈与、売買)させると税金(相続税、贈与税、所得税等)がかかるように、個人から法人へ財産を移転させた場合も税金や移転コストがかかります。
かかってくる税金・移転コストの種類や誰にかかるかは、移転の形や移転する財産によって異なってきます。
(個人の所得税・住民税の税率は、移転させる財産の種類により異なります。)
移転方法 | 説明 | 主な税金・移転コスト | |
売買 | 有償で財産を移転させる方法です(代金を分割払いする場合を含みます)。 | 個人 | ・所得税 ・住民税 |
法人 | ・不動産取得税(不動産の場合) ・登録免許税(不動産の場合) |
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出資 | 金銭や現物を出資して、代わりに会社の株主になる方法です。 | 個人 | ・所得税 ・住民税 |
法人 | ・不動産取得税(不動産の場合) ・登録免許税(出資時及び不動産の場合) |
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贈与 | 無償(または時価よりも低価格)で財産を移転させる方法です。 | 個人 | ・所得税 ・住民税 ・贈与税(贈与者以外に株主がいる場合で、その株主の持ち株の時価が上がった時) |
法人 | ・法人税等(時価相当額を「受贈益」という収入と捉え、課税対象となります) ・不動産取得税(不動産の場合) ・登録免許税(不動産の場合) |
このように、どうやっても個人(及び法人)に何らかの税金はかかってしまいます。
【所得税等・法人税等の節税効果+相続税の節税効果>移転コスト】となるなら(そして移転コストを短期間で回収できそうなら)やってみる価値はあると思いますが、個人・法人双方の税額シミュレーションや相続税シミュレーションを入念にやっておく必要はあるかと思います。
相続税から完全に逃れられるわけではない
これらの方法を使ったとしても、相続税から完全に逃れられるかというと、そうでもありません。
売買・出資
売買や出資の場合は、いま持っている財産【不動産・有価証券・現預金など】が別の財産【売却代金やその会社の株式】に置き換わるだけです。
置き換わることで財産評価額の圧縮効果が得られたり、小分けできるので生前贈与がしやすくなったりはしますが、完全に逃れられるわけではありません。
贈与
贈与の場合は、いま持っている財産が手元からは無くなりますが、その会社の株式を持っていれば、その価値が上がりますので、100が0になるわけではありません。
会社から受ける利益が貯まっていけば、それも財産になる
個人から移転を受けた財産を、会社は運用して利益を上げていくわけですが、その利益は給与(役員報酬)や配当などの形で家族役員・家族従業員に分配されます。
相続対策をした本人も、収入がないと生活していけないので、分配を受ける必要がありますが、分配を受けたお金が貯まっていけば、財産として蓄積されるため、やはり相続税の課税対象になります(分配額を必要最低限に抑えたり、贈与したりするなど、やりようはありますが)。
相続はその後も続いていく
会社への出資形態がどうであれ、株式は親から子、子から孫へと受け継がれていくことになります。
この国に相続税という税目があり続ける限りは、この株式は相続税の課税対象となりますので、いまは相続税がかからなかったとしても、将来かかる可能性は残されているのです。
特に会社の株式は、経営権争いが起きないよう、家族の中の誰かに株式を集中させることが多いので、その人には相続税がかかりやすくなります。
そのため、株価の引き下げや贈与などの対策をずっと取り続ける必要があります。
まとめ
法人化による節税効果は確かに存在しますが、他方で法人化することで新たなコストや手間がかかるという側面もあります。
そして、法人に財産を移したからといって、財産が完全に無くなるわけではなく、誰かが何らかの形で保有し続けるので、相続税とは完全に無縁になるわけでもないのです。