相続税の資金繰り対策

  • 相続税の納税期限は10か月以内
  • 相続税の納付は現金一括払い

相続税の納税に関する基本的なルールはこの2つです。

相続税は、基礎控除額【3,000万円+600万円×法定相続人の数】を超える部分に対してかかるので、
財産の金額以上に相続税がかかることはありません。

しかし、不動産や非上場株式などの、お金に換えにくい財産が多くを占めていて、キャッシュ(現預金や生命保険金、上場株式、投資信託など)が少ないと、

 相続したキャッシュ<相続税額

ということが起こり得ます。

こういう時に、10か月以内に取り得る「相続税の資金繰り対策」についてお話したいと思います。

 

対策①:使える節税制度・納税猶予制度を使う

相続税には、財産を引き継いだ相続人がその後の生活や事業運営等に困らないよう、相続税の抑制や納税を猶予してもらえる制度がいくつか設けられています。

分類 制度 内容
相続税を抑制できる制度 小規模宅地等の特例 自宅や事業、賃貸用の土地を相続した場合に、土地の評価額を50~80%減額できる制度
配偶者の税額軽減 配偶者が相続した分については、1億6千万円と法定相続分のどちらか多い方までは、相続税がかからない制度
障害者控除 障害者である相続人が相続した場合は、【10万円※×85歳になるまでの年数】分だけ控除できる。
※特別障害者の場合は20万円
未成年者控除 未成年者である相続人が相続した場合は、【10万円×成人するまでの年数】分だけ控除できる。
納税猶予(免除ではありません)制度 農地の納税猶予 農地(田畑など)を相続し、農業経営を続ける場合は、農地に対する相続税の大部分の納税を猶予してもらえる。
(特例)事業承継税制 事業を承継した場合には、事業に関する財産(会社の場合は、会社の株式)に対する相続税の納税を猶予してもらえる(以前からある制度の場合は、約50%分だけ)。

 

まずは、これらの制度で納税額を削れないか検討してみましょう。

ただしこれらの制度は、次の2点に注意が必要です。

  1. 要件に該当しなければ、そもそも使用できません。
  2. 目の前の相続税の納税対策には有効であるが、相続人のその後の生活や次の相続税に影響を与えるので、先々のことを考えて、これらの制度を使うかどうか、よくよく検討しなければなりません。

 

対策②:非現金資産の現金化を検討する

取り得る節税策・納税猶予策を講じても尚相続したキャッシュが相続税額に足りなければ、次に考えるのが、「非現金資産の現金化」です。

簡単に言えば、相続した財産の売却や換金です。

売却・換金の候補になるのが、例えば次のような財産です。

財産 備考
不動産
(主に遊休土地や収益物件)
早い段階で、不動産の売却可能額の査定を不動産会社に依頼しておきましょう。
非上場株式(相続人が会社を承継しない場合) 他の株主や会社そのものに買い取ってもらえないか打診します。そのためにも、こちらも早い段階で株式の評価額を出しておきましょう。
生命保険契約
(×:保険金)
解約返戻金があるもので、必要がない契約は解約してお金に換えてしまいましょう。

 

なお、相続した財産を売却した場合は、売却益に対する所得税は相続人が支払わなければなりませんが、財産にかかった相続税をこの売却益から差し引くことができます。

ただし、それをできるのは亡くなってから3年10か月以内に売却した場合です(相続税の納税資金捻出が目的なら十分間に合いますが)。

最近では、不動産を担保に相続税の納税資金を融資し、不動産の売却代金で返済するというサービスを扱っている不動産会社もあるようです。

そういうのも検討してみてもよいかもしれません。

 

対策③:延納・物納

それでも相続税を払えるお金がなく、相続人が自腹を切るのも難しい場合は、いよいよ「延納」や「物納」という方法を使わざるを得ません。

簡単に言うと、「延納」とは「分割払い」のことであり、「物納」とは名前の通り「物で納める」ことです。

延納

延納を利用するには、いくつか条件があります。

  1. 相続税額が10万円超であること。
  2. お金で納付することが難しい金額であること(相続財産でも、生活費などを除いた相続人本人の財産でも足りない)
  3. 期限までに申請書などを提出すること。
  4. 担保を提供すること(延納額100万円以下+延納期間3年以下なら不要)

支払い条件は下記の通りです(2・3は不動産の占める割合や対象財産によって異なります)。

  1. 年払い
  2. 利子税(利息):0.7~1.3%(2020年の場合)
  3. 延納期間:5・10・15・20年以内

物納

延納でも対応できない部分については、お金ではなく物で納めることができます(相続税にしかない制度です)。

物納も、延納と同じく申請書などが必要になります。
また、物納に充てられる財産は限定されていて、優先順位が付けられています。

順位 財産の種類 備考
第1順位 不動産、船舶、国債、地方債、上場株式など 権利設定がされている不動産や境界が明らかではない不動産、事業休止中の会社の株式などは、それぞれの順位の中で後回しにされます。
第2順位 非上場株式など
第3順位 動産  

 

納税額に充当する時の財産の金額は、「相続税評価額」を使います。
そのため、

  • 売却予想額が低い財産
  • 売りにくい財産
  • 値下がりしている財産(特に上場株式など)

などは、条件に合致していれば、売却して納税資金を捻出するよりも物納を選択した方がよいかもしれません。

 

まとめ

特に不動産や非上場株式などの「非現金資産」が多い方は、相続が発生した早い段階で、あるいは生前から動くようにした方がいいかと思います。

相続税の計算自体で時間がかかりますし、納税猶予や延納・物納、売却手続きなどはもっと時間がかかるからです。