遺留分についてー遺留分の計算と相続税の計算とは考え方が違う

遺言書があれば、財産をあげたい人へ好きなように渡すことができます。

相手は相続権のない人(孫、子や孫の配偶者、友人、お世話になった人、内縁関係の
ある人、法人など)でも構いません。

しかし、例えば「○○に全ての財産を相続(遺贈)させる」と書いてあったとしても、
一方で相続人にも主張できる最低限の取り分が存在します。

それが「遺留分」です。

 

いくら遺留分が認められているか?いつまで主張できるか?

遺留分は、被相続人との関係によって、次のように決まっています。

  • 配偶者、子ども、孫:法定相続分の2分の1
  • 親が相続人になる場合:法定相続分の3分の1

 ※親である子どもが先に亡くなっている場合

遺言書による相続人の取り分がこの遺留分に足りていない場合は、不足分を他の財産取得者に
請求することができますが、この請求できる期間も次のように決まっています。

  • 最低限の取り分をもらえていないと分かってから1年以内
  • 亡くなってから10年以内

 

遺留分の計算のもとになる財産額とは?

遺留分の計算のもとになる財産額は、次のように計算されます。

+or▲ 内容 相続税計算との違い
亡くなった時点の財産 ・死亡保険金や死亡退職金は、相続税の課税対象にはなりますが(非課税枠あり)、ここでの財産には入りません。
第三者に生前贈与した金額(1年以内 ・相続人や受遺者(遺言で財産をもらう人)ではない人への生前贈与は、相続税の計算では何年以内のものであっても加算不要です。
相続人への特別受益に該当する生前贈与の金額
10年以内

・相続税の計算では、財産額に加算される贈与金額は3年以内のものです。

・住宅取得資金贈与の非課税部分は、相続税の計算では財産に加算しませんが、遺留分の計算では加算の対象になります。

亡くなった時点の債務 ・葬式費用は、相続税の計算の際は財産から控除できますが、遺留分の計算では控除できません。

特別受益通常の生活費や学費の援助などを超えた贈与など(住宅やその購入資金の贈与、開業資金の援助など)を指します。

遺留分の計算では含めるが、相続税の計算では含めない(またはその逆)、といった違いが
いくつかあり、ややこしいです。

特に相続税計算との違いで注意しなければならないのが、生前贈与です。

相続税の節税のために、

  • 毎年少しずつ贈与していったり
  • いろんな贈与税の非課税制度で思い切り贈与したり

といったことがよく行われますが、遺留分の面から見ると、贈与してもらえない他の相続人
へ配慮も欠かさないなど、慎重に考えなければなりません。

 

遺留分対策のために生前からできること

最低限の取り分をもらえなかった相続人が、相続後に遺留分を主張することがないよう、
または主張してきても対応できるように、生前から遺留分対策も欠かせません。

現状把握

そのためには、まず「相続シミュレーション」での現状把握が大事です。

  1. 財産額と相続税額を試算し、
  2. 考えている遺産配分通りに分けたら、
  3. いくら遺留分に足りていないかを把握します。

遺留分を充足できるように配分を考える

いくら足りていないかが把握できたら、遺留分を充足できるように配分を考え直します。

遺言書を書いた時は遺留分に充足したつもりでも、財産額が変動すれば遺留分に足りなく
なる恐れもありますので、財産内容の把握はこまめに行っておく必要があります。

遺留分の放棄をしてもらう

財産があまりもらえない推定相続人さえOKであれば、相続後に取り分を主張しないように
生前から「遺留分の放棄」をしてもらうことも可能です。

家庭裁判所に申し立てを行えば遺留分を放棄することができます。
(用意するのは申立書や戸籍謄本などの書類と収入印紙800円分だけなので、安くできます)

ただし、家庭裁判所が遺留分の放棄を認める「3つの判断基準」があります。

  1. 遺留分を放棄する人の意思で行うこと
  2. 遺留分を放棄する理由が合理的であること
    例えば「家業の継続のために財産を分散させないため」とか「長男には十分に経済的
    援助をしてあげたから、相続では二男に争い無く引き継がせるため」といった理由です。
    「長男より二男の方が可愛いから」とか「長男が嫌いだから」といった感情的な理由
    では通りません。
  3. 遺留分と同等の代償があること
    遺留分を放棄する見返りとして、それなりの補償をしておく必要があります。

生命保険を活用する

配分変更や遺留分放棄で対応できない場合は、生命保険を活用するという方法もあります。

上の遺留分計算のところでも述べたように、死亡保険金は遺留分計算の際は財産に含めない
ため、遺言で財産をたくさんもらう人が死亡保険金を受け取れるようにしておくことで、
遺留分の請求をされても、その保険金で支払いをすることができます。

ただし、財産の多くを保険に突っ込んでいる場合などは、上の遺留分計算で言うところの
「特別受益」に該当してしまいますので、注意が必要です。