遺言書があっても、遺産分割協議してもよい場合・遺産分割協議が必要な場合・遺産分割協議をした方がよい場合

遺言書があればその通りに遺産分けし、なければ相続人全員で話し合い(遺産分割協議)
で遺産分けする・・・

これまでの記事で、再三このように書いてきました。

しかし、遺言書があったとしても、相続人全員が一致すれば、必ずしも遺言書通りに
遺産分けをする必要はなく、遺産分割協議で遺産分けの方法を決めても良いのです。

 

遺言書があっても、遺産分割協議してもよい場合

遺言書は、相続人や受遺者(遺言書で財産をもらう人)のうち誰か1人でも、その内容に
賛成であれば、その遺言書通りに財産を分ける必要があります。

逆に言えば、その人たち全員が遺言書通りでない方法で遺産分けすることに合意すれば
遺言書の内容とは異なる方法で遺産分け(遺産分割協議)をすることができます。

 

遺言書があっても、遺産分割協議が必要な場合

逆に、相続人たちの意思に関係なく、遺言書があったとしても遺産分割協議が
必要になってくることもあります。

遺言書で分け方が決まっていない財産がある場合

遺言書で誰がもらうか決まっていない財産がある場合は、その財産についてだけ、
相続人全員で遺産分割協議をする必要があります。

こんなことがないように、遺言書には、すべての財産の行き先(引き継ぐ人)を漏れなく
書いておいた方が良いです。

 「前条までに記載した財産を除く一切の財産を○○に相続させる

という一文を入れておけば、後から思わぬ財産が出てきたとしても、遺産分割協議の
必要は無くなります。

「どの財産」を「誰」に「どのように」あげるか具体的に決まっていない場合

 「自宅の土地・建物は妻に相続させる

 「預貯金は長男と長女で2分の1ずつ相続させる

という具合に、「どの財産」を「誰」に「どのように」あげるかが、遺言書の中で具体的に指定
されている場合は、その通りに分ければ問題ありません。しかし、

 「全財産の3分の2は妻に、3分の1は長男に相続させる

 「預貯金の分け方は、相続人全員で話し合って決めること

という具合に、具体的にどの財産を誰が引き継ぐかが決まっていない場合は、結局当事者同士で
遺産分割協議をして、個別の財産をどう引き継ぐかを決めなければなりません。

せっかく遺言書を書いても、結局は残された人たちに手間ひまをかけさせてしまうことに
なります。

 

遺言書があっても、遺産分割協議をしたほうがよい場合

遺言書の書き方は完璧であっても、その通りに分けると不都合が生じる場合は、
遺産分割協議を選択肢に入れた方がよい場合もあります。

相続税の負担が大きくなる場合

ここでは、自宅や事業、不動産賃貸用の敷地を相続した場合に、相続税の課税対象額を
大きく減額できる「小規模宅地等の特例」が大きく関係してきます。

この特例は、特に自宅や事業用の敷地については、その土地を誰が引き継ぐかで
使えたり使えなかったりします。

この特例を使えない人が相続した場合は、使える人が相続した場合に比べて、全員の
相続税の負担が大きく違ってくることがあります。

「相続税が多少かかっても、その分け方でいきたい」と相続人全員が納得すれば、
別にそれでもよいのですが、「相続税を安くしたい、そんなに負担できない」という
場合には、遺言書による分け方をやめて、遺産分割協議をすることも選択肢に入れても
よいと思います。

また、今回の相続税だけでなく、次(配偶者)の相続税を試算してみた時に、遺言書の
分け方では、トータルでは相続税の負担が大きくなるという時も同様です。

納税ができない場合

相続税の納税は、現金一括払いが原則ですが、遺言書の内容次第では、それが難しく
なることもあります。

例えば、遺産が不動産3,000万円・預貯金3,000万円、相続人が長男と長女の2人という状況で、
「不動産は長男に、預貯金は長女に、それぞれ相続させる」という内容の遺言書があった場合
で考えてみます。
(小規模宅地等の特例が使えなかったとして、相続税は1人90万円×2人=180万円です。)

この場合、長女は親から相続した預貯金3,000万円の中から相続税90万円を支払うことができ、
自腹を切る必要はありません。

しかし、長男は預貯金を相続していないため、相続税90万円を支払うには、自腹を切るか、
不動産を売却して納税資金を工面するしかありません

この例なら、わざわざ売却することもないかもしれませんが、額が大きくなってくると
売却ということも考えなくてはいけません。

また、相続税だけでなく、不動産を相続するには登記費用(登録免許税、司法書士への報酬)
も必要になります。ここでも預貯金の相続がなければ、自腹を切らなければなりません。

遺言書通りに分けると、資金繰りが苦しくなってしまう人がいる場合は、遺産分割協議に
切り替えてあげることも考えなくてはいけません。

相続税がかかる場合は相続税シミュレーション・納税シミュレーションを事前にしておきましょう

こういったことにならないよう、特に相続税がかかりそうな人は、遺言書の作成に
とりかかる前に、相続税シミュレーションと納税シミュレーションをしておくことを
お勧めします。

シミュレーションした上で、相続税負担や資金繰りにも配慮した遺言書を作っておくと、
残された人たちを困らせずに済みます。