配偶者の住まい確保をめぐる改正について

3月5日、3月6日からのシリーズで、配偶者への住まい(やその購入資金)の贈与のお話をしていますが、今回は、配偶者の住まい確保に関する近年の改正についてお話したいと思います。

 

夫婦間の住宅の贈与は特別受益の対象外に

1つは、婚姻期間20年以上の夫婦間で住宅(家屋や敷地)を贈与した場合は、あげた側の相続で遺産分割を行う時に、持ち戻し計算の対象外とする、という平成30年の民法改正です(令和元年7月1日から施行)。

「持ち戻し計算」とは、生前に行った贈与なども亡くなった人の財産にカウントした上で、遺産分割を考えるというものです。

遺言などで「この贈与については、持ち戻し計算の対象外とする」と指定することもできてはいましたが、今回の改正で、婚姻期間20年以上の夫婦間の住宅の贈与については、遺言などで何も書いていなくても、「持ち戻し計算の対象外とする」という意思があったものとして、遺産分割の対象にカウントしない、というものです。

 

例えば、お父さんが自宅2,000万円分、預貯金2,000万円を持っていたとして、そのうち自宅を生前にお母さんに贈与した場合で考えてみます(相続人はお母さんと子ども1人)。

お父さんが亡くなった時点で持っていた財産は、預貯金2,000万円ですが、改正前ですと、ここに生前贈与した自宅2,000万円をカウントし、合計4,000万円で遺産分割を考えます。

もし法定相続分で分けるとすれば、次のようになります。

  お母さん:(預貯金2,000万円+自宅2,000万円)×1/2=2,000万円
       2,000万円ー自宅2,000万円(すでにもらっている)=0円

  子ども :(預貯金2,000万円+自宅2,000万円)×1/2=2,000万円→子どもの取り分

このように、お母さんは既に自宅をもらっていて、法定の取り分に達しているので、今回の遺産分割では何ももらえないことになります(必ずしも法定相続分通りに分ける必要は無く、両者が合意すれば違う分け方でもOKなのですが)。

しかし、今回の改正で、生前に贈与した自宅はカウントしないので、次のようになります。

  お母さん:預貯金2,000万円×1/2=1,000万円

  子ども :預貯金2,000万円×1/2=1,000万円

残った預貯金2,000万円を2人で分け合うことになります。

 

ちなみに、相続税の計算では、「贈与税の配偶者控除」を使って贈与した自宅については、相続前3年以内に贈与したものであっても、2,000万円までは財産には加算されません(以前から)。

 

「配偶者居住権」の創設(予定)

もう1つ、今年4月1日から創設される予定の権利、「配偶者居住権」についてです。

これはその名の通り、一方の配偶者が亡くなった後も、同居していたもう一方の配偶者が自宅に住み続けることができるという権利です。

これまでは、財産全体に占める自宅の評価額の割合が高いと、配偶者が自宅を泣く泣く手放さなければならないといったケースもありましたが、この「配偶者居住権」が創設されたことで、例えば、

  • 「配偶者居住権」は、妻が相続
  • 自宅の「所有権」は、子どもが相続

というように、住む権利と所有権を分けて、それぞれを違う人が相続することが可能になりました(居住権の方は配偶者限定)。

 

この「配偶者居住権」は、配偶者が自動的に取得できるわけではなく、遺言書にその旨を書いておくか、遺産分割協議で決める必要があります。

また、「配偶者居住権」という権利を登記しておく必要もあります。登記しておかないと、例えば所有権を引き継いだ子どもがその自宅を第三者に売却した際に、配偶者が自宅からの退去を求められる可能性があるからです。

 

相続税の計算上は、建物の耐用年数や平均余命などから「配偶者居住権」を計算し、相続税評価額から居住権の評価額を引いた残りが「所有権」の評価額となります。

例えば、遺産の総額が大きくて、お母さんに住まいは確保してあげたいが、お母さんにたくさん財産を渡してしまうと、お母さんの相続(二次相続)の時にたくさん相続税がかかってしまう、といったシチュエーションが使いどころかと思います。

 

ただし、この「配偶者居住権」は他人に売却できるものではないので、将来老人ホーム等に入居するつもりでも、自宅を売却して入所費用に充てるということができません(売却できるのは所有権を持っている人だけ)。

 

家族が円満であれば、子どもが相続した実家を売却して入所費用に充ててあげたり、そもそも「配偶者居住権」の設定が不要(親が自宅を相続することに反対しない)かと思います。

しかし、それが期待できないのであれば、次のような方法が考えられます。

  • 「贈与税の配偶者控除」を使って、生前に自宅を贈与する。
    →不動産取得税などのコストはかかるが、配偶者の自宅を早めに確保できて、遺産分割の時に持ち戻し計算しなくてよい。

  • 遺言書で自宅を配偶者に相続させる
    →他の相続人が主張できるのは、法定相続分の半分(遺留分。相続人が子どもなどの場合)なので、後から他の相続人に渡さないといけない金額は、遺産分割よりは少なくて済む。