贈与税の配偶者控除 使った方がいい場合・使わない方がいい場合
昨日(3/5)の記事で、贈与税の配偶者控除の紹介をしました。
2,110万円以内に抑えれば、贈与税はかからないものの、住宅そのものを贈与すると不動産取得税や登録免許税などのコストが余分にかかる、ということを最後の方にお話しました。
そうであれば、こんな制度使わない方がいい、ということになってしまいますが、場合によっては使って方がよいこともあります。
目次
相続税では配偶者は優遇されている
相続税の計算では、次の2つの有利な特例があります。
- 小規模宅地等の特例
- 配偶者の税額軽減
1つ目の「小規模宅地等の特例」とは、自宅や賃貸アパート、個人事業用の建物などの土地を相続した場合には、相続税の計算で、土地の評価額から大きく減額ができるというものです。
自宅の土地については、最大で80%減額ができます。
自宅の土地について減額ができるのは、一緒に住んでいた人が相続した場合です。
ほとんどの場合、夫婦は一緒に住んでいることが多いと思いますので、一方が亡くなって、もう一方が自宅を相続した場合は、この減額を受けられることが多いと思います。
つまり、配偶者が自宅を相続して、この特例を使えば、自宅の土地の最大8割部分は税金がかからなくなるので、わざわざコストをかけて生前に自宅を贈与することはないのです。
2つ目の「配偶者の税額軽減」とは、1億6千万円と法定相続分※のどちらか多い金額までであれば、配偶者には相続税がかからないというものです。
※配偶者以外の相続人の構成によって、2分の1・3分の2・4分の3・1分の1のいずれか。
この制度によって、配偶者は、よほどたくさんの財産をもらわなければ、相続税がかかることは可能性は低いのです。
そのため、「小規模宅地等の特例」と同じように、コストをかけて生前贈与を受けるくらいなら、相続で自宅をもらった方が、税金的には有利なのです。
それでも贈与税の配偶者控除を使った方がいい場合
しかし、それでも「贈与税の配偶者控除」を使った方がいい場合が3つあります。
使った方がいい場合① 新築or購入する場合
1つ目は、住宅そのものを贈与するのではなく、新築または購入の資金を贈与する場合です。
この場合は、贈与の際の不動産取得税や登録免許税はかかりませんので、贈与する側の配偶者の財産次第では、むしろ積極的にした方がいい場合もあります。
使った方がいい場合② 贈与する側の配偶者の財産が多い場合
2つ目は、贈与する側の配偶者の財産がとても多くて、相続税がとてもかかると予想される場合です。
この場合は、不動産取得税や登録免許税などのコストがかかったとしても、贈与による相続税の節税効果の方が大きくなる可能性があります。
下の表は、相続税の税率表です。
各人ごとの法定相続分相当の財産額 | 税率 |
1,000万円以下の部分 | 10% |
1,000万円超 3,000万円以下の部分 | 15% |
3,000万円超 5,000万円以下の部分 | 20% |
5,000万円超 1億円以下の部分 | 30% |
1億円超 2億円以下の部分 | 40% |
2億円超 3億円以下の部分 | 45% |
3億円超 6億円以下の部分 | 50% |
6億円超の部分 | 55% |
相続税の計算では、基礎控除額(3,000万円+600万円×相続人の数)を引いた後の残りを、それぞれの相続人の法定相続分で按分し(もらった財産の金額にかかわりなく)、それを上の表に当てはめて税金を出し、最後に合算します。
財産の金額が大きくなれば、それだけ課される税率も高くなります。
例えば、税率が40%の段階の人であれば、2,000万円分の自宅の持ち分を贈与すると、
2,000万円×40%=800万円 の相続税の節税効果があります。
贈与にかかる不動産取得税などのコストは、約70万円ほどですので、これらのコストがかかったとしても、生前に贈与する方がお得にはなります。
特に、自宅の敷地が100坪以上ある方や、家屋の評価額が高い方(鉄骨造りやRC造りなど)だと、贈与税の配偶者控除を使った方が有利になる可能性もあります。
(小規模宅地等の特例は100坪部分について8割引です。また家屋には小規模宅地等の特例は使えません。)
相続税のシミュレーションをして、コストに見合った節税効果が得られるのであれば、使う価値はあるかと思います。
使った方がいい場合③ 将来売る可能性がある場合
3つ目は、将来自宅を売る可能性がある場合です。
不動産を売る場合には、売却益に対して20.315%の所得税や住民税がかかりますが(短期で売る場合は約40%)、自宅を売る場合には、売却益から最大3,000万円を控除することができます(税金がゼロになったとしても、確定申告は必要)。
もし自宅を共有している場合は、夫婦それぞれの持ち分相当の売却益に対して、最大3,000万円の控除ができます。つまり夫婦合わせて最大6,000万円の控除も可能なのです。
そのため、将来老人ホームなどに入所するつもりがあり、その際には自宅を売るつもりなら、「贈与税の配偶者控除」を使うのも一考です。
ただし、次の3点には注意が必要です。
- 「贈与税の配偶者控除」は、贈与後も引き続き住む見込みであることが要件なので、贈与してすぐに売ってしまうと、配偶者控除の方が使えなくなる可能性がある。
- 自宅の敷地を売る場合は、家屋も一緒でないと、3,000万円控除が受けられないので、贈与するなら土地・家屋をセットにする。
- 贈与に伴うコストの支払いと、3,000万円控除による節税効果の発現には、タイムラグがある。
まとめ
今回は、税金の視点から、「贈与税の配偶者控除」を使った方がいい場合・使った方がいい場合についてお話しました。
「贈与税の配偶者控除」の制度は、配偶者の住まいの確保を税制的に助ける意味合いがありますが、近年の民法改正などで、配偶者の住まい確保しやすくなっています。
それについて、次回、税金の話も絡めてお話したいと思います。