住宅取得資金贈与の3つの注意点
子どもや孫が自宅を購入(または建築)するための資金を、親や祖父母が援助してあげた場合には、通常の贈与の非課税枠(110万円または2,500万円)に加えて、特別な非課税枠が上乗せされる制度があります。
これが、「住宅取得等資金の贈与」の非課税制度です。
ですが、この制度を使うに当たっては、いくつかの注意点がありますが、特に見落としやすい3つの注意点を挙げてみたいと思います。
制度の概要
まず、非課税の金額は、「請負契約や売買契約の年月日」や「消費税が何%の時に建てられたものか」によって、次のように変わってきます。
1.消費税10%になってから新築された物件(2019年4月以降に請負契約して、引き渡しが同年10月以降の物件も含みます)
契約年月日 | 省エネ住宅など | 左記以外の住宅 |
2019/4/1~2020/3/31 | 3,000万円 | 2,500万円 |
2020/4/1~2021/3/31 | 1,500万円 | 1,000万円 |
2021/4/1~2021/12/31 | 1,200万円 | 700万円 |
2.1以外の物件(消費税8%の時代以前に新築された物件)
契約年月日 | 省エネ住宅など | 左記以外の住宅 |
2016/1/1~2020/3/31 | 1,200万円 | 700万円 |
2020/4/1~2021/3/31 | 1,000万円 | 500万円 |
2021/4/1~2021/12/31 | 800万円 | 300万円 |
ここで言う「省エネ住宅など」とは、省エネ性能や耐震性能などに優れたものとして認められたもの(一定以上の等級が与えられているもの)として証明がされている住宅を言います(こちらの非課税枠を使うには、証明書のコピーを提出する必要があります)。
この非課税制度は、誰でも、どの物件でも受けられるわけではなく、たくさんの要件があります。
人の要件について、主な要件を挙げると、次の通りです。
- 親や祖父母から20歳以上(贈与した年の1月1日時点)の子どもや孫への贈与であること
- 子どもや孫の所得金額が2,000万円以下であること
- もらった年の翌年3月15日までに新築や購入をして、なおかつ、それまでに住むこと(贈与や契約が年末ぎりぎりなどの場合で、間に合わないときは、棟上げまでできていれば、そして完成したらすぐに住むのであればOKです(戸建ての場合))
建物の要件については、床面積が50㎡以上240㎡以下であることや、築20年以内(鉄骨造やRC造なら25年以内)であること又は一定の耐震基準を満たしていることなどがあります。
(狭すぎず広すぎず、古すぎない住宅っていうことです)
色んな要件がありますが、贈与する方(親御さんやおじいさん・おばあさん)にとっては、通常の非課税枠以上のまとまった金額を無税で贈与することができるので、効果的な相続税対策であると言えます(しかも、生前贈与加算(3年以内の持ち戻し)が、これに関してはありません)。
また、もらう方(子どもや孫)にとっては、援助してもらった分、ローンの返済に回すはずだった金額を他のこと(貯蓄や投資、教育など)に回すことができます。
注意点① 税金がかからなくても、贈与税の申告は必要
このように、おいしい制度ではありますが、列挙した要件以外に、注意すべき点が3つあります。
その1つ目が、贈与税の申告を、もらった年の翌年3月15日(今年は3月16日→さらに1か月延長)までにしなければならないということです。
「非課税の制度=税金がかからない=申告しなくてもよい」
と考えてしまいがちですが、違います。
制度の適用を受けるためには、贈与税がかからなくても、贈与税申告をする必要があります。
贈与税の申告を忘れていて(しないといけないとも思わなくて)、非課税の適用が受けられなかった、という事例もちらほら聞くことがあります。
贈与税の申告までやって、住宅取得資金贈与は終わりなのです。
また、申告に当たっては、次のような書類も必要になります。特に戸籍などは、遠方の自治体から取り寄せないといけないこともありますので、早めに動くようにしましょう。
- 戸籍謄本(親子や祖父母・孫の関係であることが分かるもの)
- 土地や建物の謄本
- 売買契約書や請負契約書のコピー
注意点② 持ち分は出資割合通りにする
これは、住宅取得資金贈与に限った話ではないのですが、住宅を新築や購入するに当たっては、
「お金を出した人たちが、それぞれの出資割合に応じた持ち分を持つ」
ということをしないと、贈与税がかかることがあります。
例えば、両親と子ども家族が同居する自宅(建築代金5,000万円)を建てた場合でお話します。
この建築代金5,000万円全額を、お父さんが負担した場合、通常ですと、自宅の所有者はお父さんになります。
しかし、住宅取得資金贈与の非課税制度を利用して、うち3,000万円を子どもに贈与したことにすると、自宅の所有者と持ち分は次のようにしなければなりません。
父:2,000万円(5,000万円ー贈与した3,000万円)/5,000万円=5分の2(40%)
子:3,000万円(父からの贈与)/5,000万円=5分の3(60%)
これをもし、制度を使っているにも関わらず、次のようにすると、贈与税がかかることがあります。
①所有者は子のみ
3,000万円は非課税ですが、残り2,000万円については、贈与税が課税されてしまいます。
②所有者は父のみ
3,000万円を子どもに贈与したのに、その部分も父の持ち分にしては、そもそも非課税枠が無効になります。
ですので、それぞれが出資した割合に応じて、持ち分を設定するようにしましょう(なお、110万円以内であれば、端数をどちらかに寄せても、贈与税はかかりません)。
注意点③ 住宅ローン控除を併用する時は、確定申告書の書き方に注意!
最後に注意すべき点は、援助で足りない分を、住宅ローンを組んで支払った場合です(このケースはかなり多いのではないでしょうか)。
援助(贈与)してもらった分については、贈与税の申告が必要ですが、住宅ローン控除を受ける場合には、別途、所得税の確定申告が必要です。もちろん、両者の併用は可能です。
しかし、ここで問題になるのは、確定申告書に付ける、計算明細書の書き方です。
17住宅ローン控除は通常、次のどちらか少ない金額の1%を所得税から控除できます(1~10年目の場合、最大40万円or50万円)。
- 年末のローン残高
- 住宅の取得金額
このうち、「住宅の取得金額」については、補助金や贈与資金を購入資金に充てている場合は、それを差し引いた上で、どちらか少ない方の金額を選ばなければなりません(下図参照)。
おととし12月に、会計検査院からの指摘で国税庁が調べたところ、この引き忘れやもらった人の所得の要件などで最大約14,500人の方が修正申告が必要なことが発表されていました。
これを忘れると、後から修正申告をしないといけなくなるので、十分に注意しましょう。
まとめ
住宅取得資金贈与は、贈与をしたら終わりではありません。
購入(または新築)から居住、申告までスケジュール感を持つようにしましょう。