役員借入金と相続
会社を経営している方の多くが、相続の際に問題になるのが、
- 会社への貸付金(会社側から見ると「役員借入金」。以下、「役員借入金」で統一。)
- 会社の株式
の2つの承継と税金の問題です。
今回は、役員借入金と相続の問題についてお話したいと思います。
目次
役員借入金も相続財産になる
役員借入金は会社への貸付金ですので、相続が発生すれば相続財産に含まれることになります。
当然ですが、役員借入金が多ければ多いほど、相続税も増えていきます。
相続財産になるが、お金になりにくい!?
役員借入金は、会社のお金が足りない時などに、社長が会社にお金を貸し付けたものが累積したもの、ということが多いかと思います。
この役員借入金、会社から返済を受けられるならまだいいのですが、多くの場合、赤字補填などに消えて、返済の見込みがないことが多いのではないかと思います。
つまり役員借入金は、会社に貸したお金ではあるものの、現金化の見込みが少ない財産であることが多いのです。
お金には変わらない可能性が高いのに、相続税は課税されてしまう財産なのです。
役員借入金の相続(税)対策
会社の社長という方ですと、財産の大部分が役員借入金で、他は自宅と預貯金がいくらか、というケースも少なくはありません。
返済を受けられる見込みは少ないのに、相続税がかかってきてしまうのを防ぐ手立てを挙げてみたいと思います。
対策① 債務免除する
返済が難しいのであれば、「債務免除」、つまり、会社に対して「もう返さなくていいよ」という意思表示をすることで、役員借入金を消してしまう方法があります。
「もう返さなくていいよ」の意思は、社長から会社に対して、債務を免除する旨の文書を出すことで表示します。
内容証明郵便を利用することで、日付と内容が残りますので、おすすめです。
ただし、以下の2点に注意が必要です。
- 会社に税金がかかる可能性がある。
会社側からすると、借入金を返さなくてよくなったので、その分「債務免除益」という利益を得たことになり、収益に計上する必要があります。会社に累積の赤字が残っている場合には、その赤字と相殺させることで、法人税がかからなくて済みますが、累積赤字以上に借入金の返済を免除してもらった場合には、法人税がかかることがあります。
なお、相殺することができる赤字は、過去9年分に限られます。
- 他の株主に贈与税がかかる可能性がある
社長以外に株主がいる場合も注意が必要です。
借入金の返済を免除すると、会社の株価が増加することがあります。これにより、社長以外の株主の持ち株が、110万円超増加すると、その超えた部分に対して贈与税がかかりますので、債務免除する前とした後で株価がどう変わるのか、注意が必要です。
対策② 役員借入金を贈与する
役員借入金を子どもなどの親族に贈与する方法もあります。
贈与する方法としては、「贈与契約書」を作成する方法があります。
ただし、事業に関わらない親族に贈与してしまうと、後々返済を迫られるなどのトラブルのもとになる可能性もあります。
また、社長の相続後も会社を存続させたいという意向であれば、役員借入金は会社の後継者が相続できるよう、遺言などの手当てをしておく必要もあります。
対策③ 会社を清算してしまう
対策①と似ていますが、役員借入金の返済の見込みが立たず、事業も振るわないのであれば、思い切って会社を畳むというのも1つの方法です。
会社を畳むときも、役員借入金を返済を免除することなるので、やはり「債務免除益」という収益を計上しなければなりません。
しかし、会社を畳む場合は、過去9年ではなく、それまでの累積赤字すべてと相殺させることができるようになっています。
会社を畳んだ場合でも、個人事業という形で事業を続けることも可能です。
個人事業になることで、次のようなメリット(人によってはデメリットかもしれません)があります。
- 個人事業に転換した後、2年間は消費税を納めなくてもよい。
- 従業員5人未満なら、社会保険に加入しなくてもよい。
- 役員登記が不要。
なお、会社を畳む際には、登記が必要になり、登記費用がかかることにご留意ください。
対策④ 「疑似DES」を利用する
「DES」とは、”Debt Equity Swap”(債務(Debt)と株式(Equity)の交換(Swap))の略、つまり「債務の株式化」を意味します。
会社にお金を貸し付けている社長からすれば、貸付金という財産を使って会社に出資し、会社の株式を受け取る形になります。
債務超過を解消するために使われる手法ですが、通常のDESだと次のようなデメリットがあります。
- 税金計算上は、対策①の債務免除と同じに見られるので、「債務免除益」という収益を計上しなければならない。
- 役員借入金はなくなるが、代わりに会社の株式という財産ができる(財産の評価額は役員借入金よりも少なくなる可能性があります)。
そこで、通常のDESに似た手法として、「疑似DES」というものがあります。
これは、次のような段階を踏みます。
- 金融機関などから、役員借入金相当のお金を借りる。
- 会社は、金融機関などから借りたお金を使って、社長に役員借入金を返済する。
- 社長は、会社から返してもらったお金を使って、会社に出資する。
- 会社は、社長から出資してもらったお金を使って、金融機関などに借入金を返済する。
通常のDESと違うのは、役員借入金を株式に変えるのに、現金を介在させている点です。
また、上記のように、実際に役員借入金を返済していれば、「債務免除益」という収益が計上されることはありません。
会社の財産に含み損があり、株価がそこまで上がらなければ、実行してみる価値はあるかと思います(もちろん、金融機関などの協力が得られる場合のみです)。
しかし、通常のDESにも疑似DESにも共通する2つの欠点がありますので、それ込みでやるかどうかを考えた方がいいかと思います。
- 資本金額が増えるので、法人住民税の均等割額が増える。
- 資本金額が1億円を超えると、法人税に関する中小企業の特例(軽減税率、30万円未満の固定資産の特例など)が受けられなくなり、また「留保金課税」や「外形標準課税」などの新たな課税が出てくる。
まとめ
会社を経営されている方にとって、役員借入金と会社の株式のウエイトは無視できないものがあります。
健康診断と同じで、年に1回はこれらを含めた相続シミュレーションをすることをお勧めします。