2つの贈与の使い道

昨日(2/26)紹介した、2つの贈与制度、「暦年課税」と「相続時精算課税」について。

これらは上手く使い分けることで、有効な相続(税)対策になります。

 

基本的な相続税対策なら、暦年課税

2つの贈与制度のうち、相続税対策として有効なのは、基本的には「暦年課税」です。

なぜなら、「暦年課税」により贈与した財産のうち、相続時の財産に加算するのは、「相続等で財産をもらった人への贈与で、亡くなった日から3年以内のもの」に限られるからです。

そのため、親御さんが元気なうちから少しずつ贈与していけば、相続時に加算される金額は少なくて済みますし、相続人にならない人に贈与していれば、3年以内の贈与でも加算は不要です(その人が遺言などで財産をもらわなければ)。

その人の財産規模にもよりますが、想定される相続税率よりも低い贈与税率の範囲で、多くの人(子どもだけでなく、孫や子どもの配偶者など)に、毎年少しずつ贈与していけば、贈与税の負担を考えても、将来負担する相続税を圧縮する効果が期待できます。

 

相続時精算課税が有効な場面

一方、「相続時精算課税」による贈与は、何年前のものであっても相続時の財産に加算して相続税が計算されるため、基本的には相続税の節税効果はありません。

しかし、加算される金額は「贈与した時の評価額(≒時価)」であることを活かすことで、相続税の節税効果が得られる場合もあります。

 

例えば、幹線道路が出来ることで、将来値上がりが期待される土地を、値上がりする前に「相続時精算課税」を使って贈与することで、贈与しなかった場合に比べて、相続税の節税効果が期待できます。

例)値上がり前の財産総額:1億円(うち土地5千万円) → 値上がり後の財産総額:1.5億円(うち土地1億円)
  の場合(相続人は子ども3人)

  1.相続時精算課税を使わなかった場合
    相続税:1,440万円

  2.相続時精算課税を使って、値上がり前に土地を贈与した場合
    贈与税:500万円
    相続税:630万円ー贈与税500万円=130万円
    総負担額:500万円+130万円=630万円

土地のほかにも、有価証券(株、投資信託など)も価格の変動が起こりやすい財産なので、値上がりが期待できる財産は、相続時精算課税を使うことで節税効果を得られる場合もあります。

特に、同族会社の株式(自分の会社の株式)については、社長の座を勇退する際に、役員退職慰労金を支給することで、株価を大きく引き下げ、その直後に相続時精算課税を使って株を後継者にまとめて贈与することで、将来的な相続税の節税につなげることが可能です。

ただし、逆に贈与した時よりも評価額が下がった状態で相続が発生した場合も、贈与時の高い評価額を加算しなければならず、余計に税金がかかってしまうリスクもありますので、注意は必要です。

 

少しずつ贈与したいか、まとめて贈与したいか

2つの贈与制度の使い分け方について、もう1つ挙げると、

  • 少しずつ贈与したい、少しずつ贈与できるもの(現金、株など)→暦年課税
  • まとめて贈与したい、まとめての方が贈与しやすいもの(不動産など)→相続時精算課税

という方法もありかと思います。

暦年課税は、現金や株など、小分け可能な財産を贈与していくのには向いていますが、不動産などの小分けしにくい(できないことはありませんが)財産の贈与には向いていません。

一方、相続時精算課税は、2,500万円までは(ひとまずのところ)贈与税がかかりませんので、今のうちに一気に財産を移したいという場面に向いている制度です(ただし、不動産を贈与した場合は、不動産取得税や登録免許税がかかりますので、全くの無税で贈与できるわけではありません)。

 

まとめ

2つの贈与制度の使い分け方を比較すると、次の通りです。

  暦年課税 相続時精算課税
節税効果を発揮する場面 相続の何年も前から計画的に、少しずつ多くの人に贈与していくことで節税効果を発揮する。 値上がりが予想される財産(土地や同族会社の株式など)を、値上がり前に贈与することで節税効果を発揮する。
利用に向いている財産 毎年少しずつ、小分けで贈与するのに向いている(現金、株など) まとまった額の財産や小分けしにくい財産(不動産など)を贈与するのに向いている

 

このようにはなっていますが、どちらを使うかは、まず相続税シミュレーションで現状把握をするところから始めましょう。

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