2つの贈与

所得税と消費税の確定申告以外に、もう1つ、3月15日(今年は16日ですが)が期限になっているものがあります。

それが、贈与税申告です。

通常、年間で110万円を超える贈与を受けた場合には、この日までに贈与税の申告と納税が必要です。

この「贈与」には、2つの課税制度があります。

 

毎年110万円まで非課税の制度―暦年課税

1つが、冒頭でも述べた、年間110万円までは非課税で、110万円を超えた部分に対して贈与税がかかる制度、「暦年(れきねん)課税」です。

暦年とは、「1月1日から12月31日まで」の期間を指します。

110万円を超えた部分の多寡に応じて、税率が次のように変わります(この点は所得税と同じです)。

110万円控除後の金額 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

 

なお、祖父母や両親から20歳以上の子や孫に贈与した場合には、次のように税率が変わります(少し優遇されます)。

110万円控除後の金額 税率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

 

 

2,500万円まで贈与税がかからない制度―相続時精算課税

もう1つが、2,500万円までであれば、贈与税がかからない制度、「相続時精算課税」です。

主なルールは次の通りです。

  • 60歳以上の祖父母や父母から、20歳以上の子や孫への贈与に適用できる(年齢はどちらも1/1現在)。
  • 一度この制度を選択すると、それ以後の贈与額累計が2,500万円までは贈与税がかからず、2,500万円を超えると、超えた部分に対して一律20%の贈与税がかかる。
  • 一度この制度を選択すると、それ以後の贈与については、この制度しか使えなくなる(暦年課税は使えなくなる)。
  • 暦年課税か相続時精算課税かの選択は、祖父母や父母ごとにできる。
    例)父からの贈与:相続時精算課税  母からの贈与:暦年課税  ということも可能。
      その後、父からの贈与は相続時精算課税しか使えませんが、母からの贈与は、暦年課税か
      相続時精算課税かを選択することができます。
  • 贈与税がかからない時も、贈与があれば申告は必要
  • 贈与税申告の際、申告書と一緒に「相続時精算課税選択届出書」を提出する(他に、戸籍謄本等や戸籍の附票なども必要)。

 

2つの制度の違い―いつまで「持ち戻す」か?

「暦年課税」と「相続時精算課税」には、上記で述べたもの以外に、大きな違いが他にもあります。

その1つが、「相続税申告」への影響です。

通常、相続税は、亡くなった人が、亡くなった時点で持っていた財産に対してかかるものですが、亡くなる前に贈与をしていた場合には、その贈与財産の金額を、財産額に加算しなければならない場合があります。

 

暦年課税」の贈与の場合は、亡くなった日からさかのぼって3年以内にした贈与金額を、財産に加算する必要があります。

 

ここにもいくつかルールがあります。

  • 3年以内の贈与で加算対象となる人は、相続などで財産をもらった人だけ
    例)相続人だけれども、協議の結果、何も相続しなかった人→加算対象外
      相続権はないけれど、遺言で財産をもらった孫→加算対象
      相続人ではないけれど、生命保険金をもらった人→加算対象
  • 贈与税がかかったかどうか関係なく加算する。
    贈与税がかかっていた場合は、相続税から差し引くことができる(控除しきれない場合の還付は無い)。
  • 亡くなった年に贈与した分に関しては、贈与税申告は不要。
  • 加算する金額は、贈与時の評価額。

 

特に注意が必要なのは、孫への贈与です。

よく相続対策で、孫への暦年贈与が行われますが、遺言で孫に財産をあげることにしていたり、生命保険金の受取人になっていたりする場合は、3年以内の贈与が加算されてしまいます。

さらに、孫の場合は、本来相続人にはならないので、通常の相続税額に20%上乗せが行われ、むしろ余計な税金を支払う可能性もあります(孫の親=子が健在の場合)。

 

一方、「相続時精算課税」の場合は、贈与時点は関係なく、何年前の贈与でも加算する必要があります。

なぜなら、この制度は、祖父母や親世代の財産を子や孫の世代に移転させることを促すために作られた制度なので、贈与税を贈与時点ではなるべくかからないようにする代わりに、相続の時に税金を精算しましょう、というものなのです(だから、「相続時精算」課税なのです)。

他にも、次のようなルールがあります。

  • 相続の際に財産をもらわなくても、相続財産に加算しなければならない(暦年課税と違う点)。
  • 贈与税がかかった場合は、相続税の計算の際に、相続税から控除できる(控除する贈与税の方が多ければ還付も受けられます)。
  • 亡くなった年に贈与した分に関しては、贈与税申告は不要(届出書の提出は必要)。
  • 加算する金額は、贈与時の評価額。

 

以上をまとめると、次のようになります。

  暦年課税 相続時精算課税
非課税枠 毎年110万円以内 選択後、相続開始までを通じて2,500万円
税率 10~55% 20%
相続税申告時の加算 3年以内のものを加算(相続等で財産をもらった人だけ) 何年前のものでも加算(相続で財産をもらったかどうかは関係ない)
相続時に加算する金額 贈与時の評価額 贈与時の評価額
控除しきれない場合 還付なし 還付あり

 

まとめ

この2つの制度は、場面に応じた使い分けをすることで、有効な相続(税)対策になります。

その使い分けについては、明日見ていきたいと思います。

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