なんでこんなに税金が増えたの/減ったの?―所得税のしくみ
「去年とそんなに収入や儲けが変わっていないはずなのに、税金が倍になってる・・・」
そんな経験ありませんか?
その疑問は、所得税の計算のしくみが分かれば解決できる、かもしれません。
所得税の計算のしくみ
これは、令和元年分の所得税の確定申告書です。
左上(収入金額等、緑色部分)・・・経費を引く前の総収入金額
↓
左真ん中(所得金額、水色部分)・・・経費を引いた後の手取り金額
↓
左下(所得から差し引かれる金額(所得控除)、赤色部分)・・・各人の事情に応じて控除できる金額
↓
右上(税金の計算、紫色部分)・・・左真ん中ー左下の残額をもとに税金を計算
の順番に計算していきます(あと、補足で右下のピンクやライトグリーンの部分も記載することがあります)。
さらに、右上(税金の計算、紫色部分)では、次のように分けることができます(一部端折っています)。
- 左真ん中ー左下の残額×税率(5~45%)
- 色んな税額控除(配当控除、住宅ローン控除など)
- 復興特別所得税(2.1%)を加算
- 源泉徴収税額(あらかじめ給料や年金などから天引きされたもの)を控除
- 予定納税額を控除(税金の仮払い分)
- ここまででプラスなら納税、マイナスなら還付
これを踏まえて、冒頭の疑問が起こる原因を見ていきたいと思います。
原因① 所得控除が減った/増えた
収入や儲け(所得)がそんなに変わらないのに、税金が増える原因の1つが、「所得控除」の増減です。
これは、事業の経費とは別に、各人の事情に応じて、儲け(所得)から引くことができるものです。
全部で13種類の控除がありますが、2つのグループに大別することができます。
グループ1:金銭的・物理的な要因によるもの(金銭の支出を伴ったり、被害があったりした場合)
→社会保険料、小規模企業共済等掛金、生命保険料、地震保険料、雑損、医療費、寄附金
グループ2:人的な要因によるもの(自分や家族の事情)
→寡婦(夫)、勤労学生、障害者、配偶者(特別)、扶養、基礎
例えば、
「これまで学生だった子どもが社会人になって、扶養から外れた」→扶養控除の減少
「扶養の範囲内で働いていた妻が、正社員として働きだした」→配偶者控除の減少
「今年は病院代があまりかからなかった」→医療費控除の減少
といった、「環境の変化」により所得控除額が減少して、税金が増えることがあります。
(逆に、「子どもが16歳以上になった」(扶養控除の増加)、
「結婚して妻が専業主婦になった」(配偶者控除の増加)、
「妻が出産して医療費がかさんだ」(医療費控除の増加)
といった「環境の変化」により所得控除が増加して、税金が減ることもあります。)
原因② 税率のステージが上がった/下がった
原因のもう1つが、所得税の特徴である「累進課税制度」、つまり所得が増えれば増えるほど、税率のステージが上がっていくという制度によるものです。
課税所得(左真ん中ー左下) | 税率 | 控除額 |
195万円未満 | 5% | 0円 |
195万円以上330万円未満 | 10% | 97,500円 |
330万円以上695万円未満 | 20% | 427,500円 |
695万円以上900万円未満 | 23% | 636,000円 |
900万円以上1,800万円未満 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円以上4,000万円未満 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 4,796,000円 |
上記の表は、所得税の速算表です。これに課税所得金額(左真ん中ー左下)を当てはめて税金を計算します。
例えば、課税所得が、前年:800万円 今年:1,000万円 (その差は200万円)である場合、税額は次のように変わります。
前年:800万円×23%ー636,000円=1,204,000円
今年:1,000万円×33%ー1,536,000円=1,764,000円
税額差:56万円 ※これに、2.1%の復興特別所得税が加算されます。
原因③ 予定納税
所得税の計算の最後に出てくるのが、「予定納税」です。
予定納税とは、前年の所得税額が15万円以上である場合には、その3分の1ずつの金額を、7月と11月に納めるというものです。※前年に年金収入や不動産などの売却等があれば、計算方法が少し変わります。
7月と11月に納めた「予定納税額」は、次の確定申告で、最後の税額(申告書で言うと、㊺の「申告納税額」)から差し引くことができます。
つまり、「前年にある程度所得があって、納税しているなら、次の確定申告までの間に、仮で何回か納税してくださいよ」というわけです。
プロ野球選手が年俸が大幅に減俸され、「来年の税金どうしよ・・・」と言っている原因の1つが、この「予定納税」です(もう1つは住民税)。
前年の多額の年俸をもとに翌年の予定納税額が計算されるのに、翌年の年俸が大きく下がって、払えるかどうかという瀬戸際に立たされるからです(一応、救済措置はありますし、そのための対策をしている選手は多いかと思います)。
話が逸れましたが、上記原因②の例に、前々年の課税所得が600万円だった場合と翌年の課税所得が1,000万円だった場合とを加えて比較してみます。
|
課税所得 |
税率 | 控除額 | 申告納税額㊺ (復興特別所得税考慮後) |
予定納税額 | 最終納税額 |
前々年 | 600万円 | 20% | 427,500円 | 788,700円 | 0円 | 788,700円 |
前年 | 800万円 | 23% | 636,000円 | 1,229,200円 | 525,800円 | 703,400円 |
今年 | 1,000万円 | 33% | 1,536,000円 | 1,801,000円 | 819,400円 | 981,600円 |
翌年 | 1,000万円 | 33% | 1,536,000円 | 1,801,000円 | 1,200,600円 | 600,400円 |
※前々年は予定納税額が無かったものとします。
まず、前々年と前年とでは、課税所得が前年の方が200万円多いにも関わらず、最終の納税額は前々年の方が少し多くなっています。
これは、前々年の予定納税額が無かったためであり、「申告納税額㊺」で比べると、課税所得金額通りの大小関係となっています。
同じく、今年と翌年とで比べてみると、課税所得は同じにも関わらず、最終納税に違いがあります。
これは、予定納税額が前年の申告納税額㊺を基に計算されるためであり、今年と翌年の申告納税額㊺は同額となっています。
まとめ
その他の要因では、住宅ローン控除の終了(これまでは10年)で税額が何十万円と増えるケースや、今年から青色申告を初めて税金が減ったケースなどもあります。
最終の(お尻の)納税額だけで比べるのではなくて、申告書や決算書の至る所に、税金の増えた減ったの要因があるということを頭の片隅に置いておいてください。