上場株式を持っていたら、住民税の申告もした方がいいかも⁉(本編)

2日空きましたが、ここからが本編です。

住民税にも、所得税と同じく、3つの課税方式があります。

  1. 申告不要
  2. 申告分離課税
  3. 総合課税

住民税の申告では、所得税の確定申告で選んだ課税方式と違う課税方式を選ぶことができます。

そして、その選択によって、税額だけでなく、健康保険料にも影響することがあるのです。

※前提条件は2月7日の記事と同じとします。

上場株式を持っていたら、住民税の申告もした方がいいかも⁉(前説編)

 

所得税の確定申告をしていたら、住民税の申告はしなくてもいい

「所得税の確定申告はしたことあるけれども、住民税の申告はしたことがない」

という方も多いのではないでしょうか?

実は、所得税の確定申告は、住民税の申告も兼ねています。

税務署に確定申告書を提出すれば、その情報がお住まいの市町村に伝達され、その情報をもとに住民税の計算がされるのです。

なので、株取引についても、所得税の確定申告をすれば、改めて住民税の申告をする必要はありません。

 

では、タイトルと冒頭、前回の記事で再三述べていますが、株取引について、所得税と住民税とで、違う課税方式を選んだ方がいい場合とは、どういう場合でしょうか?

 

税率は、所得の「段階」と「税目」と「課税方式」で、こう違う

税率は、所得の「段階」と「税目」と「課税方式」によって、次のように変わってきます。

所得の段階 総合課税 分離or申告不要
所得税 住民税 所得税 住民税
195万円未満 5% 10% 15.315% 5%
330万円未満 10%
695万円未満 15%
900万円未満 23%
1,800万円未満 33%
4,000万円未満 40%
4,000万円以上 45%
配当控除の率 △10% △2.8% なし なし

※総合課税については、配当控除等をした後の税額に2.1%の復興特別所得税がプラスされます。

例えば、配当金が100,000円(ここから所得税15,315円・住民税5,000円があらかじめ差し引かれます)ある場合、その他の所得の金額次第で、配当金に対する税金は次のように変わります。
※ごちゃごちゃしてますので、ここは読み飛ばして、その後の表を見てもらった方がわかりやすいです。

 

1.その他の所得が300万円の場合
 ①総合課税
  所得税:100,000円×10%=10,000円
      10,000円ー配当控除10,000円(100,000円×10%)=0円
     →あらかじめ15,315円が差し引かれているので、15,315円が返ってくる。

  住民税:100,000円×10%=10,000円
      10,000円ー配当控除2,800円(100,000円×2.8%)=7,200円
     →あらかじめ5,000円が差し引かれているので、あと2,200円納めなければならない。

  合計の税負担:0円7,200円7,200円

 ②分離課税or申告不要の場合(今年および繰越の売却損はないものとします。以下同じ。)
  所得税:15,315円
  住民税:  5,000円
  合計の税負担:20,315円

 ③判定
  ①7,200円<②20,315円 なので、総合課税の方が有利

2.その他の所得が800万円の場合
 ①総合課税
  所得税:100,000円×23%=23,000円
      23,000円ー配当控除10,000円(100,000円×10%)=13,000円
      13,000円×1.021=13,273円
     →あらかじめ15,315円が差し引かれているので、2,042円が返ってくる。

  住民税:100,000円×10%=10,000円
      10,000円ー配当控除2,800円(100,000円×2.8%)=7,200円
     →あらかじめ5,000円が差し引かれているので、あと2,200円納めなければならない。

  合計の税負担:13,273円7,200円20,473円

 ②分離課税or申告不要の場合
  所得税:15,315円
  住民税:  5,000円
  合計の税負担:20,315円

 ③判定
  ①20,473円>②20,315円 なので、申告分離課税または申告不要の方が有利

3.その他の所得が4,000万円の場合
 ①総合課税
  所得税:100,000円×45%=45,000円
      45,000円ー配当控除10,000円(100,000円×10%)=35,000円
      35,000円×1.021=35,735円
     →あらかじめ15,315円が差し引かれているので、あと20,420円納めなければならない。

  住民税:100,000円×10%=10,000円
      10,000円ー配当控除2,800円(100,000円×2.8%)=7,200円
     →あらかじめ5,000円が差し引かれているので、あと2,200円納めなければならない。

  合計の税負担:35,735円7,200円42,935円

 ②分離課税or申告不要の場合
  所得税:15,315円
  住民税:  5,000円
  合計の税負担:20,315円

 ③判定
  ①42,935円>②20,315円 なので、申告分離課税または申告不要の方が有利

 

このように、所得の段階によって、税率が変わってくるので、有利不利も変わってきます。

上の例を見ていただいたら分かるように、他の所得が800万円(配当収入と合わせて810万円=900万円未満)の段階で、分離課税or申告不要の方がギリギリ有利という状況です。

そのため、通常なら、配当収入+他の総合課税の所得<695万円未満 なら、総合課税の方が有利になります。

 

住民税だけ、「申告不要」を選択したら・・・

上記の例を表にまとめると、次のようになります。

他の所得金額 総合課税 分離or申告不要
所得税 住民税 合計 所得税 住民税 合計
300万円 0円 7,200円 7,200円 15,315円 5,000円 20,315円
800万円 13,273円 7,200円 20,473円 15,315円 5,000円 20,315円
4,000万円 35,735円 7,200円 42,935円 15,315円 5,000円 20,315円

 

ここで、住民税についてだけ、「申告不要」とした場合はどうなるでしょうか?

他の所得金額 総合課税 分離or申告不要
所得税 住民税 合計 所得税 住民税 合計
300万円 0円 5,000円 5,210円 15,315円 5,000円 20,315円
800万円 13,273円 5,000円 18,273円 15,315円 5,000円 20,315円
4,000万円 35,735円 5,000円 40,735円 15,315円 5,000円 20,315円

 

住民税だけ申告不要とした場合は、既に源泉徴収されている5%(5,000円)で課税が終了するため、住民税については総合課税よりも申告不要の方が有利となります。

他の所得金額が800万円の段階では、通常であれば分離or申告不要の方が有利でしたが、所得税:総合課税・住民税:申告不要とした場合は、こちらの方が有利になりました。

 

なお、今回の例は、配当収入のみの場合を挙げましたが、売却損益もある場合は有利不利が変わってきます。

 

住民税の「申告不要の申告」はどうやってやればいい?

では、住民税の「申告不要の申告」はどうやればいいのでしょうか?

それには、次の2つの書類に、下記のように記載する必要があります。

所得税の確定申告書と比べて、記載は簡単です。
(例は大阪市の場合)

市民税・府民税申告書

大阪市・府民税申告書(区内居住者用)表(WEB用)
大阪市・府民税申告書(区内居住者用)表(WEB用)-2

表面(1枚目)には、住所・氏名・生年月日・電話番号・マイナンバーを記載します。

裏面(2枚目)は、「8 配当所得に関する事項」の下側「課税方式の選択に関する事項」にチェックを入れます。

また、「13 配当割額または株式等譲渡所得割額の控除に関する事項」の金額を記載する欄に、両方とも「0円」と記載します。

所得税の確定申告書のように、所得金額や控除額などを記載する欄がありますが、これらは記載不要です。

すでに確定申告をしており、その情報は市町村に伝達されるからです。

市民税・府民税申告書付表(課税方式選択用)

31sisinhuhyou

こちらも、まず住所・氏名・生年月日・電話番号を記載します。

次にⅠの(1)(住所欄の下)にチェックを入れます。

そして、一番下のⅡの金額を記入する欄に、全て「0円」と記載します。

その他の注意点

他に、いくつか注意点があります。

  1. 個人の住民税の申告は、電子申告(eLTAX)では申告ができません。紙で提出する必要があります。
  2. 所得税の確定申告書のように、3月15日までに提出する必要はありませんが、5月頃までには提出する必要があります。
    5月頃に住民税の税額を決定して、5月下旬から6月上旬にかけて、通知書が発送されるからです。
  3. 所得税の確定申告書の情報が市町村に伝達されるようにはなっているのですが、市町村によっては、確定申告書のコピーや株取引に関する書類のコピーなどの提示を求められる場合があります。
  4. 大阪市では、上記のような申告書フォーマットがありましたが、市町村によっては様式が若干異なる場合や、ホームページなどに公表されていない場合もありますので、手間でなければ問い合わせてみてください。

 

申告不要とすることで、国保料にも影響が

所得税の確定申告で、株の配当収入や売却益を申告すると、これらも国民健康保険料の計算対象になります(国保料はその人の所得によって決定される)。

しかし、上記の「申告不要の申告」をすることで、配当収入や売買益を、国保料の計算対象から外すことができます。