相続対策=相続税対策 ではない②-分割対策その2

相続での分割対策の続きです。

節税第一の分け方が必ずしも正解ではない

相続税がかかる家庭の場合、どうしても相続税の節税を念頭に置いた分け方になってしまいがちです。

それは必ずしも間違いではありませんが、どの家庭にとっても正解というわけではありません。

例えば、相続人が妻と子供2人、財産総額が1億円という家庭の場合で考えてみます。

1月15日の記事に掲載した早見表で計算すると、法定相続分で分けた場合の相続税は315万円です。

だいたいの相続税額を知る方法

この場合、次の妻の相続の時には、子供2人に対して80万円の相続税がかかります(妻は財産を持っていないものとします)。

一方、今回の相続で妻が全財産を相続すれば、相続税はゼロになりますが、次の妻の相続の時には、子供2人に対して770万円もの相続税がかかってきてしまいます。

相続税だけを考えれば、

 315万円+80万円=395万円 < 0円+770万円=770万円

なので、最初の相続では法定相続分に近い形で分けた方が有利です。

実際、次のお母さんの相続の時にはなるべく相続税がかからないように、相続手続きをしなくてもいいように、なるべく子供たちに相続してもらうというケースも多いです。

しかし、次のように、生活手段の確保という観点から、お母さんにはなるべく財産を多く持ってもらうといった考え方もあります。

  • お母さん自身にめぼしい財産がない。
  • 年金額が少ない→年金以外の定期的な収入手段が必要(賃貸不動産など)
  • 将来介護施設に入所するために、まとまったお金が必要
  • 住まいは確保したい

ちなみに、「住まいの確保」については、2018年の民法改正で、「配偶者居住権」というものが創設され、今年4月1日以降の相続から適用される予定です(詳細は今後の記事で)。

 

また、上記の例で、亡くなったご主人が事業を営んでいて、財産1億円の中身も事業に関連する財産(会社の株式、事業用の固定資産など)が多くを占めており、長男が事業を引き継ぐという場合には、事業関連の財産も長男が引き継ぐのがスムーズかと考えられます。

納税を考慮した分け方

一昨日の記事とも重複しますが、納税資金をセットにした分割も重要です。

シンプルな例をあげると、相続人が子供2人だけ、財産1億円(不動産5,000万円、預貯金5,000万円)というケース。

この子供2人にかかる相続税の総額は770万円です。

財産を均等に2分の1ずつに分けると、相続税の負担もそれぞれ385万円となります。

ここで、1人は不動産だけを、もう1人は預貯金だけをもらった場合で考えてみます。

この場合、財産の額としてはそれぞれ5,000万円ずつなので、「平等」ではあります。相続税の負担もそれぞれ385万円ずつとなります。

しかし、預貯金をもらった方は、その預貯金でもって相続税を支払えばよいのに対し、不動産をもらった方は、自分で納税資金を工面する必要があります。

そのため、納税資金を相続財産から賄えるように、預貯金などの金融資産の配分を考慮する工夫も重要です。

このケースだと、預貯金5,000万円のうち500万円を、不動産をもらう子供が相続するよう遺言書を工夫すれば、2人とも納税が可能になります(財産の配分は5,500万円と4,500万円となり、均等ではなくなりますが、「遺留分」は侵害していません)。

「付言事項」を書こう

ここまで、節税面だけに囚われることなく、各家庭の事情や財産構成などを鑑みた分け方の工夫をしよう、そのために遺言書を作成しよう、と書いてきました。

しかし、ややもすれば、遺言書によって指定した財産の配分が、相続人の間で差が出てくる可能性もあり、もらえる財産が少ない相続人は不満を持たないとも限りません。

そこで、遺言書を作成する上でおすすめしたいのが、

「付言事項」(ふげんじこう)

の作成です。

「付言事項」とは、遺言書の本文(誰に何をあげるなどの内容)の後に記載する文章です。

何を書いてもよく(または何も書かなくてもよく)、法的な効力はありません。

ここでよく書かれるのが、残された家族への感謝の気持ちや言い残したいことなどです。

あくまで法的な効力はありませんが、「この遺言書を書いた経緯」「どうしてこのような配分にしたのか」「配分が少ない相続人への配慮」などを書くことで、相続トラブルの回避や円満相続につながりやすくはなります。

円満な分割には、付言事項のある遺言書がとても大事になってきます。