社会保険から見た会社設立のメリット・デメリット

独立して事業を始めようとする場合、その事業を【個人事業】と【法人(=会社)】のどちらでやろうかという問題があります。

よく言われるのが、税金面から見たメリット・デメリット(利益が多い場合は会社にすれば節税になるが、反面、赤字の場合でも住民税の均等割を支払わないといけない等)ですが、今回は社会保険の面から見た会社設立のメリット・デメリットについてお話してみたいと思います。

合同会社MTOコンサルティングの適用通知書 私も、設立した会社で社会保険に加入しました。

会社を辞めた場合の社会保険の扱い

会社を辞めた場合、それまで入っていた社会保険(健康保険、厚生年金)は、その後次のように変わります。

健康保険

任意継続

退職後、次の職場や自分で設立した会社で社会保険に加入するまでは、以前の勤務先で加入していた健康保険に継続して加入することができます(最長2年間)。

保険料は退職時の給料をベースに計算されますが、負担がサラリーマン時代の2倍になるというデメリットがあります。

これは、サラリーマン時代は、給料から天引きされた保険料に、同額の保険料を会社が上乗せ(=会社が負担)して支払ってくれていたのが、任意継続では会社が負担してくれていた保険料もその人が支払わなくてはならないからです。

また、任意継続を選択したいなら、退職の翌日から20日以内に、自分で手続きをしないといけないので、注意が必要です。

後述する、自治体の国民健康保険よりは保険料が安くなることが多いです。

業種別の国民健康保険組合

会社を設立せず、個人事業主やフリーランスとしてやっていく場合は、自治体の国民健康保険とは別に、業種別の健康保険組合を選択できる場合もあります。

業界団体への加入や地域など、組合により加入条件が異なり、そもそも健康保険組合がない業種や地域などもあります。

保険料は、所得にかかわらず一定であることが多く、自治体の国民健康保険より安くなることが多いようです。

次の会社で社会保険に加入

自分で会社を設立して役員報酬を受給したり、別の会社に入社したりする場合等には、前の会社と同じように社会保険に加入し、給与(役員報酬)から天引きされることになります。

保険料の金額は、給与(役員報酬)の大小により変動します。

自治体の国民健康保険

以上のいずれにも該当しない場合は、お住まいの自治体で国民健康保険に加入する必要があります。

保険料の金額は、その人の前年の所得を基準にして決まるため、サラリーマン時代にそれなりの給与を得ていた場合には、独立当初は保険料の額が大きくなる傾向があります。

一方、前年所得基準なので、独立したてで、収入がそれほど上がらない時期なら、逆に保険料が安くなることもあり得ます。

厚生年金保険(国民年金保険)

次の会社で社会保険に加入(=第2号被保険者)

健康保険と同じく、次の会社に入る(または自分で会社を作って役員報酬をもらう)場合等は、社会保険に加入して、給与(役員報酬)から厚生年金保険料の天引きが行われます。

厚生年金保険料の金額も、給与(役員報酬)の大小により変動します。

国民年金保険料を自分で支払う(=第1号被保険者)

それ以外の場合は、自分で毎月国民年金保険料を支払うことになります。

令和元年度(平成31年4月~令和2年3月まで)は、月額16,410円です。

社会保険から見た会社設立のデメリット

前置きが長くなりましたが、メリット・デメリットの話をします。

先にデメリットから言いますと、会社を設立して役員報酬をもらう場合は、社会保険に強制加入となることがデメリットです(決まり事なので、デメリットと呼ぶのが適切かどうかというのはありますが)。

従業員を多く雇う場合には、従業員の給与から天引きされる保険料と同額の保険料を会社が負担してあげる必要がありますので、社会保険料の負担が増すことになります。

また、給与(役員報酬)の大小に応じて、社会保険料の金額も増減しますので、役員報酬を多く取る場合には、その分社会保険料の金額も大きくなります。

社会保険から見た会社設立のメリット

次に、メリットを挙げてみたいと思います。

保険料負担を抑えられる場合がある

先ほどから、役員報酬の大小に応じて社会保険料の金額も増減すると繰り返していますが、独立当初、役員報酬をそれほど取ることができない場合には、そのことを利用して、社会保険料の金額も抑えることも可能です。

家族の保険料の負担も抑えられる場合がある

上記1と話が似ているのですが、配偶者や子供などの家族を養っている場合(扶養に入れている場合)には、家族を「被扶養者」とすることで、以下のように家族の保険料負担も抑えることができます。

まず、健康保険料について。健康保険組合や自治体の国民健康保険の場合には、家族の分の保険料も負担する必要がある場合があります。

一方、会社の健康保険では、家族を「被扶養者」としている場合には、役員報酬から天引きされる金額でもって、自分自身だけでなく、家族の健康保険料も支払っている形になります(同額を会社が上乗せする必要がありますが)

また、厚生年金保険料については、天引き分+会社負担分の最低額は、第1号被保険者の国民年金保険料とほぼ同額で、役員報酬が増えるにしたがって、厚生年金保険料の方が多くなります。

しかし、配偶者を「被扶養者」としている場合には、この配偶者は「第3号被保険者」という扱いになり、健康保険料と同じく、天引き分+会社負担分でもって、配偶者の年金保険料も支払っている形になります。

譲渡所得がある場合(不動産などを売却した場合)

もう1つ、イレギュラーな話で、頻繫にあることではないのですが、不動産などを売却して利益が出た場合のお話です。

国民健康保険に加入している場合は、この売却益(譲渡所得)も健康保険料の計算で考慮されますので、不動産を売却などをした年の翌年は健康保険料が増加することがあります。

しかし、会社の社会保険に加入している場合には、保険料の金額は、あくまでその人の給与(役員報酬)の金額の大小に応じて決まりますので、不動産の売却益があったからといって健康保険料が増加することはありません。

まとめ

このように、会社を設立することで、社会保険に強制加入となる点がデメリットのように思われがちですが、保険料負担という点で、会社設立がメリットとなり得ることもあります。

もちろん、保険料負担という側面だけで会社を設立するかどうかを決めるのではなく、税金面や信用力の面など、様々な観点から検討する必要がありますが、1つの見方として参考にしていただければと思います。

私も、税理士事務所と併設している、合同会社MTOコンサルティングで社会保険に加入して、最近になって保険証が届いたので、書いてみました。