私が「ひとり税理士」を目指した4つの理由

 ホームページの私のプロフィールに、「ひとり税理士」と書いています。これは、文字通り、人を雇わず、ひとりで事務所を運営していく税理士のことですが、なぜひとり税理士を目指すようになったのかを書いてみたいと思います。

コスト面

 税理士業界では、お客様の数を増やし、それに伴い従業員を雇い、オフィスもより大きな規模で良い立地のもの(駅近物件など)を借り、さらにお客様の数を増やしていくというサイクルを回すのが、あるべき税理士事務所の姿、主流の考えとされています。

 しかし、従業員を雇えば、給与はもちろんのこと、社会保険料や福利厚生費などのコスト負担もあります。

 これら人件費と、オフィスの家賃は、売上に関わらず毎月支払わないといけない、「固定費」と呼ばれるもので、一度大きくなってしまうと、簡単にはコストカットできるものではありません(一度上げた給与水準は簡単には下げられませんし、オフィスの引っ越し代がかかってしまいます)。

 また、内向きの管理(入社時・退職時の手続きや給与計算、勤怠管理、オフィスの引っ越し、レイアウト変更、個人情報の管理など)の手間も発生することになります。

 一方、ひとりで事務所を経営するのであれば、人件費とオフィス家賃の2大経費がかからなくなります。月々のランニングコストは、通信費、消耗品費、書籍代くらいのものです。従業員を雇わなければ、従業員に関係する管理の手間もなくなります。

 

自分自身の性格・嗜好

 規模の拡大を目指すことと、ひとり税理士としてやっていくこととを比べた場合、私の性格や嗜好の面からも後者の方が向いていると思ったのも大きな理由です。

たくさん売上が欲しいわけではない

 売上は、自分の家族が食べていけて、かつ、それなりに貯蓄できる程度であればよいと考えています。そうであれば、無理にお客様を増やす必要はなく、従業員や立派なオフィスも必要ありません。むしろ、それによってできた時間的・金銭的・精神的余裕を、お客様に提供するサービスの質向上やプライベートの充実に振り向けたいというのが私の考えです。

マルチタスクが苦手

 勤務時代から、複数のタスクを同時並行でこなすこと(=マルチタスク)がにがてでした。 複数の仕事を同時に進めながら、アシスタントの方に振った仕事の進捗管理やチェックもし、またはどのような仕事を割り振るか考えるといったことをしていましたが、そうすると 頭がパンクしそうになっていました。

 逆に、一つ一つの仕事に集中して取り組めば、成果を出せる自信はありましたし、そのためにToDoリストを作るなどして対策をしていたつもりでした。

 お客様の数を増やし、従業員も増やすと、色んなことを考えなければならず、きちんと管理する自信がないので、必要以上にはお客様の数を増やさず、能力のすべてをお客様への対応に振り向けた方がよいと考えたのも理由です。

 

税理士の仕事の特徴

 2か所の税理士事務所に勤務して、様々な業種のお客様を担当させていただくうちに、税理士の仕事は在庫や大きな設備投資(店舗・工場、機械など)は不要であり、自分の身一つあればできる、ある意味恵まれた仕事だということに気づきました(最低限パソコンは必要ですが)。

 ひとり税理士というのは、私が考えるこのメリットを最大限活かす道なのではないかと考えています。

2冊の書籍との出会い

 2冊の書籍に、どちらも偶然出会ったことが、ひとり税理士を志向するきっかけになりました(どちらも税理士の方が書かれた本です)。

 これらの本に出会ったからひとり税理士を志向するようになったのか、元々ひとり税理士を志向していて、これらの本が後押ししてくれたのか、どちらが後先なのかは分かりませんが、ひとり税理士を目指す理由の1つとなったことには変わりません。

税理士・山本憲明さん著『社長は会社を「大きく」するな!』(ダイヤモンド社)

 ショッピングモール内の書店でたまたま手に取った本なのですが、会社といえば大きくしていくものだと固定観念があった私に、こういう道(規模の拡大を目指さない)もあるのだということを教えていただいた本です。

税理士・井ノ上陽一さん著『ひとり税理士の仕事術』(一般財団法人大蔵財務協会)

 こちらは、税理士会のとある研修の休憩時間に、会場の外で行われていた書籍販売でたまたま見つけた本です。「ひとり税理士」という言葉を知ることになった本ですが、ひとり税理士をやっていく上でのノウハウやスタンスを教えてもらえた本です。